「地の日 天の海」 Part２

“戦国時代の雄”として頭角を現して行く武将達、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康、上杉謙信等の人間像が魅力的に描かれている。後述する様に信長の意外な面、「人たらし」と称された秀吉の明るさに隠れた狡猾さ等、恰も眼前にその人物が居るかの如き錯覚をさせる程、この作品の世界に入り込んでしまった。

船木景光を父に、そして会津高田城主の芦名盛常の息女で在る母を持つ随風。父が一説には「毒殺」とも囁かれる夭逝を遂げた事で、人の世の無常を感じて出家した彼だが、出家には別の理由も在ったとされる。己が出生の秘密、足利将軍家の御落胤という疑惑が彼を悩ませていたからというのは、なかなか面白い。

興味深い記述は幾つか在るが、その中から２つだけ抽出してみる。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
・　信長の場合も謙信と同様、少なくとも当初は中央に覇権を望む気持ちは無かった。「生来の革命児」、「野心家」と思われ勝ちな信長だが、実際は保守的な人物だったと見られる。美濃を制覇した後、中央を志向したのは、弱体化した将軍を自らの武力によって補佐する事が目的で、幕府本来の姿を取り戻そうという意図から来ていたと考えられる。信長に限らず、地方大名は隣国や周辺との葛藤に忙しく、膨大な戦費を掛けて上洛し畿内を制する事の利益が無い事も在って、中央に覇権を求めようとする考え等、発想それ自体が無かった。

・　「天下布武」とは「天下に武を布（し）く」と読み、文字通りに解釈すれば「武力を用いて日本全国を制覇する」という意味に受け取れるが、実はそうでは無い。「武」という文字の解釈には戈（矛）を止めるという意味が在る。又、「春秋左氏伝」という古代中国の書物には、「武に七徳在り」と書かれており、「武」は暴力を禁じ、兵を治め、大きな国を保ち、功を定め、民を安んじ、人心を和ませ、財物を豊かにするという、「七つの徳」の事で在るという。従って、「天下布武」には、暴力を抑え、戦を止め、万民を和らがせ、物資を豊かにし得る者こそが、天下を治めるに相応しいという意味が込められている―と捉える考え方が在る。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

感想は一言、「面白かった。」。総合評価は星４つとしたい。

＊１　こちらに、その説が詳しく紹介されている。