幼少の頃より、読書が大好きだった。学校や近所の公民館の黴臭い図書室で、多種多様な本を読み漁る毎日。当時から大好きだったのがミステリーで、シャーロック・ホームズ・シリーズやアルセーヌ・ルパン・シリーズ、少年探偵団シリーズは全作品を読破。今でも一つ一つの作品を、かなり詳細に思い出せる程だ。
シャーロック・ホームズ・シリーズやアルセーヌ・ルパン・シリーズが概して優雅さを漂わせる作風ならば、少年探偵団シリーズは何とも言えないグロテスクさが漂っており、それが自分の心を捉えて離さなかった。長じるに従い、少年探偵団シリーズ以外の江戸川乱歩氏の作品も読む様になったが、グロテスクさに加えて倒錯した欲望、フェティシズム、パラダイス願望等、一般的には表出させ難い部分が渾然一体とした世界に魅了される事に。
乱歩作品を粗方読破して来たが、何故か彼の代表作の一つ「孤島の鬼」は読む機会を逸していた。たまたま訪れた古書店でこの作品を見付け、衝動買い&読破した次第。
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蓑浦金之助は会社の同僚・木崎初代と熱烈な恋に陥った。彼女は捨て子で、先祖の系図帳を持っていたが、先祖が何処の誰とも判らない。或る夜、初代は完全に戸締りした自宅で、何者かに心臓を刺されて殺害されてしまう。その時、犯人は彼女の手提げ袋と共に、何故かチョコレートの罐を持ち去っていたのだった。
恋人を奪われた蓑浦は探偵趣味の友人・深山木幸吉に調査を依頼するが、何かを掴み掛けた所で彼は衆人環視の中で刺殺されてしまう。
近しい者を相次いで殺害された蓑浦は、彼に恋愛感情を抱く親友・諸戸道雄と共に事件の真相を追う。やがて南紀の孤島に謎を解く鍵が在る事を知った2人はその島を訪れる事になったが、其処は言語を絶する地獄図の世界だった。
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今回読んだのは創元推理文庫ヴァージョンで、原文のままに掲載されている。他のヴァージョンでは、表現や用語が結構修正されているらしい。それ程迄に今日の観点からすると、差別的に捉えられる表現や用語が溢れ返っているとも言える。
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・ 夕暮れの薄暗い光線のせいではあったが、私は生まれてからあんな醜怪な老婆を見たことがなかった。背が低い上に、肉が垂れ下がるほどもデブデブ肥え太っていて、その上佝僂で、背中に小山のような瘤があるのだ。顔はというと、皺だらけの渋紙色の中に、お玉じゃくしの恰好をした、キョロンとした眼が飛び出し、唇が当たり前でないと見えて、長い黄色な乱杭歯が、いつでも現われている。そのくせ上歯は一本もないらしく、口をふさぐと顔が提灯のように不気味に縮まってしまうのだ。
・ 顔半面に墨を塗ったように毛の生えた、俗に熊娘というかたわ者がいた。手足は尋常であったが、栄養不良らしく青ざめていた。何か口の中でブツブツいいながら、それでも嬉しそうに見えた。足の関節が反対に曲った蛙のような子供がいた。十歳ばかりで可愛い顔をしていたが、そんな不自由な足で、活発にピョンピョンと飛び回っていた。小人島が三人いた。大人の首が幼児のからだに乗っているところは普通の一寸法師であったが、見世物などで見かけるのと違って、非常に弱々しく、くらげのように手足に力がなくて、歩くのも難儀らしく見えた。一人などは、立つことができず、可哀そうに三つ子のように畳の上をはっていた。三人とも、弱々しいからだで大きな頭を支えているのがやっとであった。
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ほんの一部を抜粋してみた。古典として評価されている作品とはいえ、今日的な観点からすると「差別と騒がれそう。」と出版社側が“自主規制”に動いてしまうのも判る表現や用語が並んでいる。森鴎外氏の随筆に「支那で見世物用に不具者を製造する話」が在り、それにヒントを得てこの筋立てを考えたとか。諸戸の同性愛志向、そしてその要因と言える“母親”との関係等、タブーとも言える内容が独特な世界を構築。
ドロドロとした前半に比べて、後半は冒険小説的な色合いが濃くなっている。全体的に文章のくどさは感じるが、次の展開が気になってついつい頁を捲ってしまった。肝心な謎解きの面ではハッキリ言って物足りなさを感じるが、流石に代表作の一つとされるだけの内容では在る。総合評価は星3.5個。
シャーロック・ホームズ・シリーズやアルセーヌ・ルパン・シリーズが概して優雅さを漂わせる作風ならば、少年探偵団シリーズは何とも言えないグロテスクさが漂っており、それが自分の心を捉えて離さなかった。長じるに従い、少年探偵団シリーズ以外の江戸川乱歩氏の作品も読む様になったが、グロテスクさに加えて倒錯した欲望、フェティシズム、パラダイス願望等、一般的には表出させ難い部分が渾然一体とした世界に魅了される事に。
乱歩作品を粗方読破して来たが、何故か彼の代表作の一つ「孤島の鬼」は読む機会を逸していた。たまたま訪れた古書店でこの作品を見付け、衝動買い&読破した次第。
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蓑浦金之助は会社の同僚・木崎初代と熱烈な恋に陥った。彼女は捨て子で、先祖の系図帳を持っていたが、先祖が何処の誰とも判らない。或る夜、初代は完全に戸締りした自宅で、何者かに心臓を刺されて殺害されてしまう。その時、犯人は彼女の手提げ袋と共に、何故かチョコレートの罐を持ち去っていたのだった。
恋人を奪われた蓑浦は探偵趣味の友人・深山木幸吉に調査を依頼するが、何かを掴み掛けた所で彼は衆人環視の中で刺殺されてしまう。
近しい者を相次いで殺害された蓑浦は、彼に恋愛感情を抱く親友・諸戸道雄と共に事件の真相を追う。やがて南紀の孤島に謎を解く鍵が在る事を知った2人はその島を訪れる事になったが、其処は言語を絶する地獄図の世界だった。
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今回読んだのは創元推理文庫ヴァージョンで、原文のままに掲載されている。他のヴァージョンでは、表現や用語が結構修正されているらしい。それ程迄に今日の観点からすると、差別的に捉えられる表現や用語が溢れ返っているとも言える。
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・ 夕暮れの薄暗い光線のせいではあったが、私は生まれてからあんな醜怪な老婆を見たことがなかった。背が低い上に、肉が垂れ下がるほどもデブデブ肥え太っていて、その上佝僂で、背中に小山のような瘤があるのだ。顔はというと、皺だらけの渋紙色の中に、お玉じゃくしの恰好をした、キョロンとした眼が飛び出し、唇が当たり前でないと見えて、長い黄色な乱杭歯が、いつでも現われている。そのくせ上歯は一本もないらしく、口をふさぐと顔が提灯のように不気味に縮まってしまうのだ。
・ 顔半面に墨を塗ったように毛の生えた、俗に熊娘というかたわ者がいた。手足は尋常であったが、栄養不良らしく青ざめていた。何か口の中でブツブツいいながら、それでも嬉しそうに見えた。足の関節が反対に曲った蛙のような子供がいた。十歳ばかりで可愛い顔をしていたが、そんな不自由な足で、活発にピョンピョンと飛び回っていた。小人島が三人いた。大人の首が幼児のからだに乗っているところは普通の一寸法師であったが、見世物などで見かけるのと違って、非常に弱々しく、くらげのように手足に力がなくて、歩くのも難儀らしく見えた。一人などは、立つことができず、可哀そうに三つ子のように畳の上をはっていた。三人とも、弱々しいからだで大きな頭を支えているのがやっとであった。
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ほんの一部を抜粋してみた。古典として評価されている作品とはいえ、今日的な観点からすると「差別と騒がれそう。」と出版社側が“自主規制”に動いてしまうのも判る表現や用語が並んでいる。森鴎外氏の随筆に「支那で見世物用に不具者を製造する話」が在り、それにヒントを得てこの筋立てを考えたとか。諸戸の同性愛志向、そしてその要因と言える“母親”との関係等、タブーとも言える内容が独特な世界を構築。
ドロドロとした前半に比べて、後半は冒険小説的な色合いが濃くなっている。全体的に文章のくどさは感じるが、次の展開が気になってついつい頁を捲ってしまった。肝心な謎解きの面ではハッキリ言って物足りなさを感じるが、流石に代表作の一つとされるだけの内容では在る。総合評価は星3.5個。
後に僕も手に入れたのですが、一気に読了しました。翌日、学校があったのに、夜中の3時まで眠れなくなりました。
やはり、この作品の白眉は「秀ちゃんの手記」だと思います。筒井さんもこの部分には影響を受けたようで、「異常に状況下で生活する子供の手記」という文体の短編小説をいくつか残しています。
筒井さんは
「乱歩さんは、谷崎潤一郎に匹敵する名文家」
と評していました。少年探偵団シリーズも、子供向きに「です・ます」体で書かれているのが、かえって恐怖感を生み出していると思います。
結末が「大団円」で終わるので、救われたような気持ちになりますが、いずれにしても、映像化は不可能な大傑作だと思います。
でもなぜか友人には天地茂アワーが好きだということは言えなかった。
今、DVD化されてツタヤに並んでるほどメジャーだったということに驚いています。
あと、山さんこと露口茂吹き替えのシャーロック・ホームズも大好きだったがこれも友人には言わなかった^^;。
ところでホームズの著者コナン・ドイルはオカルト趣味という特殊な趣味はあったけれど、それ以外は保守的なつまらないオッサンだったようです。でも乱歩はかなり変わった人だったみたいですね。作品にも反映されているのかも。
天知茂氏が明智小五郎役を演じていた「江戸川乱歩の美女シリーズ」、自分も大好きな番組でした。ドリフ世代ですから、波越警部役を演じていた荒井注氏が堪らなかったし、当時好きな女優の一人だった五十嵐めぐみさんがヒロインの文代役というのもGood。確か大和田獏氏が1話だけ小林少年役で登場していましたね。「こんな老けた少年が居るか?」と幼心に思っていましたが。
明智探偵が変装を脱ぎ捨てる瞬間がこの作品の山場でも在りましたが、マスクを脱ぎ捨てた瞬間、顔にわざとらしい程の接着剤の痕が残っているのでも御茶目でした。(ヅ○疑惑の在った天知氏だけに、マスクと一緒に脱げてしまわないかとブラウン管を前にドキドキしたりも。)色々見せ場の在ったこのシリーズですが、グロテスクさと共に御色気シーンも満載で、性に目覚め始めた自分にとってはそれも見所でしたね。
NHKで放送されていた「シャーロック・ホームズの冒険」も良かったですね。露口茂氏&長門裕之氏(ワトソン)の吹き替え起用も嵌っていたし、当時のロンドンの雰囲気が何とも心地良く再現されていました。
「昼間から暗い部屋に籠もり、蝋燭だけを灯して執筆していた。」等、変人&奇人振りが指摘されている乱歩氏。倒錯した世界を描く為、意図的に自らを追い込んでいたのかもしれませんが、一般人にはなかなか出来ない事です。
そりゃ九人の戦鬼じゃなくて乙女達が頑張る姿の方を優先しますから(苦笑)
「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E5%B7%9D%E4%B9%B1%E6%AD%A9%E5%85%A8%E9%9B%86_%E6%81%90%E6%80%96%E5%A5%87%E5%BD%A2%E4%BA%BA%E9%96%93)、これはその存在も含めて全く知りませんでした。“宝の山”ことYou Tubeで早速検索しました所、こちら(http://jp.youtube.com/watch?v=HNXqudCmMjc)で予告編を見る事が出来ました。映像のみならず、ナレーションもかなりヤバイですね。日本で映像ソフト化出来ないというのも理解出来ます。
明智小五郎のテレビドラマというと、子供の頃、かすかに記憶に残っている「殺人金魚」、また見たいです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E5%B7%9D%E4%B9%B1%E6%AD%A9%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA_%E6%98%8E%E6%99%BA%E5%B0%8F%E4%BA%94%E9%83%8E
http://jp.youtube.com/watch?v=nhC01g0JmNw
リンク先を拝見しましたが、浪越警部役の山田吾一氏、平井教授役の山村聡氏というキャスティングだけでも興味が惹かれますね。