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稲葉麻美(いなば あさみ)の彼氏・富田誠(とみた まこと)がスマホを落とした事が、全ての始まりだった。拾い主の男はスマホを返却するが、男の正体は狡猾なハッカー。麻美を気に入った男は、麻美の人間関係を監視し始める。セキュリティーを丸裸にされた富田のスマホが、身近なSNSを介して、麻美を陥れる狂気へと変わって行く。一方、神奈川の山中では、身元不明の女性の死体が次々と発見され・・・。
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第15回(2016年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で“隠し玉”に選ばれ、今年4月に上梓された小説「スマホを落としただけなのに」。著者・志駕晃氏は、ニッポン放送の現役社員との事。
此の小説は、富田誠がタクシー内に置き忘れてしまったスマホを、1人の男が誤って持ち帰ってしまった事から始まっている。コンピューター技術に詳しく、異常なサイコ・キラーで在る此の男が、スマホの待ち受け画面として表示された黒髪の美人・稲葉麻美に強い関心を持ち、そして彼女を“自分の物”にし様と考え、次々と誠や麻美の個人情報を盗み取る。
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ちなみにハッカーとクラッカーの違いは、ともにコンピューター技術に詳しい人々という意味があり、その中でその知識や技術を善い方向に利用するのがハッカーで、それを不正に利用するものがクラッカーとされていた。しかしマスコミが「ハッカー=コンピューターシステムに忍び込む悪い人たち」というイメージを誤って植えつけてしまったため、未だにその言葉の捉え方は曖昧なままだった。
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パソコンやインターネットの脆弱性は屡々指摘されているし、自分は人並み以上に、そういった知識を持ち、そして注意している意識は在った。でも、クラッカーという用語は知らなかったし(英語の意味合いとしては知っていたけれど。)、ハッカーも“悪い意味合い”で捉えていた。SNSは利用していない人間だけれど、思っていた以上の脆弱性が其処には存在しており、余程の注意を払っていても、悪意を持った人間の前には、危険に巻き込まれる可能性が決して低く無い事を此の作品で感じさせられ、ぞっとする思いが。
後書きで小説家・五十嵐貴久氏が、「予言しておく。本書によって、日本のミステリーは劇的に変わる。」等と、此の作品を大絶賛している。確かにパソコンやインターネットの脆弱性を次々と指摘し、又、ストーリー的にも面白く、彼が大絶賛する“一端”は感じられなくも無い。
だが然し、“其の人物”が登場した段階で「此の人物が真犯人だろうな。」という察しは付いたし、犯行動機は在り来たり。或る人物の“正体”も良く在るパターンだったりと、「前半からの面白さが、後半で一気に尻窄み。」という感が否めず、申し訳無いが自分には「本書によって、日本のミステリーは劇的に変わる。」程の作品とは思えなかった。
先に後書きを読み、非常に期待していた事が、結果として「思っていた程でも無いな。」と感じてしまったのかもしれない。総合評価は、星3つとさせて貰う。