今回使用させて貰った画像は、手塚治虫氏が14~15歳の頃に描いたとされる昆虫標本図。最初に間近で見た際には「これ写真じゃないの!?」と感じた程、精緻細密な出来栄えだった。更に驚嘆させられたのは、この作品に纏る逸話。これ等の絵を描いていた手塚氏、或る色合い(赤茶色だったか?)を出そうと絵の具を散々混ぜ合わせるも思い通りの色が出ず(戦時中故、良い絵の具が手に入らなかった事も在り。)、最後は自らの指先を少し切って、流れ出る血を絵の具に混ぜる事で、納得行く色合いを完成させたとか。14~15歳の子供が、其処迄に「己が求める美」を追求するとは。自分の様な凡人には理解し難い部分は在るが、「最高を極めたい。」という天才ならではの逸話に感じた。
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柴山幸太は神戸でフレンチ・スタイルのビストロを営む新進気鋭の料理人。彼は、妻の友人と木下貴史との結婚披露宴に出席し、貴史の祖父で在る中島という老人と知り合いになる。その中島は人間離れした味覚を持つ有名な料理評論家で在った。披露宴での会話を通じて、幸太は中島に料理人としてのセンスを認められ、その結果、中島が幸太のビストロを訪問する事になる。
一方、幸太が中島と知り合った翌日、神戸ポートタワーで一人の男性の刺殺体が発見された。捜査に乗り出した兵庫県警捜査第一課の青山は、木下貴史の父・義明が営む会社に被害者が勤務していた事を掴む。更には義明も失踪している事を知り・・・。
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第6回「このミステリーがすごい!」大賞(2007年)を受賞した作品「禁断のパンダ」。以前の記事で「タイトルの重要さ」を記したが、「どういう内容なんだろう?」と興味を惹かせるタイトルという意味では、この作品は上手いと思う。著者の択未司(たくみ・つかさ)氏は1973年に岐阜で生まれ、大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後に神戸のフランス料理店に就職。その後、様々な飲食業に従事した経験を持っている。ミステリー作家としては、異色の経歴と言えるかもしれない。
選考委員全員が選評で記している様に、料理人の経歴を持つ人間ならではの料理に関する表現力は素晴らしい。記述だけでその料理が在り在りと頭に浮かんで来るし、「美味しそう・・・。」と涎が出そうになる程。又、飲食業の話にも「成る程。」と頷ける点が少なくなかった。
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通常、レストランで提供されている料理というものは、たった一人の人間では作ることが出来ない。世間的に名の知れた、有名シェフが料理長を務める店に食事に行ったところで、出てくる料理の全てをその有名シェフが作っているわけではない。それどころか、その全てが別の人間の手によって作られているケースがほとんどだ。料理長というものはいわば監督のようなもので、メニューとその作り方、盛り付けを考え、部下の作る出し汁やソースの味を確かめ、料理全般を管理するのが仕事だった。有名シェフの店に食事に行ったらその味にがっかりした、というときなどは、その有名シェフの管理能力が欠如しているという理由がほとんどかもしれない。一流の味を保っているレストランというものは、料理長の管理能力が素晴らしいということでもあるのだ。
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上記した様に、料理に関する表現力は凄い。しかし、その他の部分に関して言えば、高い評価は下せない。特にミステリー小説として見た場合には、「犯人の設定」や「犯行動機」、「謎解きの過程」等々、申し訳無いが拙さや疑問を感じる点が多い。ネタバレになるので詳細を書くのは控えるが、実際にそういった事件は過去に在ったし、冒頭に記したが如く「天才ならではの思い」というのも在るとは思うが、それにしてもやや荒唐無稽さを感じる結末だった。(終盤に於ける展開に、やや端折り気味さも。)登場人物達のキャラクター設定も「うーん・・・。」といった感じで、少なくとも自分は誰にも感情移入出来ないままだったし。「禁断のパンダ」というタイトルを付けた理由も「成る程。」とは思えなくは無かったが、タイトルだけが空回りしている感も。
期待度が高かっただけに、ガッカリ感は否めない。厳しいかもしれないが、総合評価は星2.5個。
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柴山幸太は神戸でフレンチ・スタイルのビストロを営む新進気鋭の料理人。彼は、妻の友人と木下貴史との結婚披露宴に出席し、貴史の祖父で在る中島という老人と知り合いになる。その中島は人間離れした味覚を持つ有名な料理評論家で在った。披露宴での会話を通じて、幸太は中島に料理人としてのセンスを認められ、その結果、中島が幸太のビストロを訪問する事になる。
一方、幸太が中島と知り合った翌日、神戸ポートタワーで一人の男性の刺殺体が発見された。捜査に乗り出した兵庫県警捜査第一課の青山は、木下貴史の父・義明が営む会社に被害者が勤務していた事を掴む。更には義明も失踪している事を知り・・・。
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第6回「このミステリーがすごい!」大賞(2007年)を受賞した作品「禁断のパンダ」。以前の記事で「タイトルの重要さ」を記したが、「どういう内容なんだろう?」と興味を惹かせるタイトルという意味では、この作品は上手いと思う。著者の択未司(たくみ・つかさ)氏は1973年に岐阜で生まれ、大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後に神戸のフランス料理店に就職。その後、様々な飲食業に従事した経験を持っている。ミステリー作家としては、異色の経歴と言えるかもしれない。
選考委員全員が選評で記している様に、料理人の経歴を持つ人間ならではの料理に関する表現力は素晴らしい。記述だけでその料理が在り在りと頭に浮かんで来るし、「美味しそう・・・。」と涎が出そうになる程。又、飲食業の話にも「成る程。」と頷ける点が少なくなかった。
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通常、レストランで提供されている料理というものは、たった一人の人間では作ることが出来ない。世間的に名の知れた、有名シェフが料理長を務める店に食事に行ったところで、出てくる料理の全てをその有名シェフが作っているわけではない。それどころか、その全てが別の人間の手によって作られているケースがほとんどだ。料理長というものはいわば監督のようなもので、メニューとその作り方、盛り付けを考え、部下の作る出し汁やソースの味を確かめ、料理全般を管理するのが仕事だった。有名シェフの店に食事に行ったらその味にがっかりした、というときなどは、その有名シェフの管理能力が欠如しているという理由がほとんどかもしれない。一流の味を保っているレストランというものは、料理長の管理能力が素晴らしいということでもあるのだ。
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上記した様に、料理に関する表現力は凄い。しかし、その他の部分に関して言えば、高い評価は下せない。特にミステリー小説として見た場合には、「犯人の設定」や「犯行動機」、「謎解きの過程」等々、申し訳無いが拙さや疑問を感じる点が多い。ネタバレになるので詳細を書くのは控えるが、実際にそういった事件は過去に在ったし、冒頭に記したが如く「天才ならではの思い」というのも在るとは思うが、それにしてもやや荒唐無稽さを感じる結末だった。(終盤に於ける展開に、やや端折り気味さも。)登場人物達のキャラクター設定も「うーん・・・。」といった感じで、少なくとも自分は誰にも感情移入出来ないままだったし。「禁断のパンダ」というタイトルを付けた理由も「成る程。」とは思えなくは無かったが、タイトルだけが空回りしている感も。
期待度が高かっただけに、ガッカリ感は否めない。厳しいかもしれないが、総合評価は星2.5個。
「自然が生み出した造形にとても惹かれた。」というのは、手塚治虫氏も同様の事を言われていました。又、彼は生物のメタモルフォーゼ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%89%E6%85%8B)にエロティシズムを感じており、「変化に対する魅力」という事で、アニメ制作に夢中になった要因は其処に在る様です。
「あべの辻調」出の作家さんですか。確かに異色ですね。でも料理モノで押すと早くに行き詰まりも見えてきそうな気が。。。
tak様も手塚治虫記念館に足を運ばれた事が在るのですね。自分もこれ迄に3度訪れましたが、漫画家になって以降の原稿も然る事乍ら、学生時代の作品の緻密さに圧倒されました。あれを見ちゃうと「やはり自分みたいな凡人とは、生まれ乍らにして違うんだなあ。」と感じちゃいますね。
料理物でも色々展開の仕方が在るとは思うのですが、少なくともこの作品を読んだ限りでは、キャラクター達が余りに魅力を感じさせない。それが致命的だったと思います。個性的なキャラクターを作り上げ、これ迄には無かった料理物のミステリーという分野を開拓して貰えれば良いのですが・・・。