1月6日の記事「獅子の城塞」に、当ブログを屡覗いて下さっているマヌケ様から、次の書き込みを頂戴した。
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三が日、実家で余りに暇を持て余し、近所のツタヤで立ち読みした作品が吉村昭の新刊です。
終戦直前の東北地方の漁村に、兵士の溺死体400体以上が流れ着き、漁師達が弔うも、多くの遺体に手首から先や腕から先が無かった事も含め、軍部から箝口令が敷かれ、隠された、と或る出来事の真相が、作者の解釈で解明される作品に驚きました。
有利な立場に在る者だけが生き残り、下の者は其の踏み台になるという世の中の縮図を見ました。
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此の梗概が気になってしまい、「何という作品なのか?」を調べてみた所、どうやら「総員起シ」で在る事が判明。初版は昭和47年に単行本として上梓された此の作品、長らく絶版状態となっていた様だが、最近になって新装版が文庫本として上梓されたとの事。
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昭和19年6月、急速潜航訓練中に不幸な事故によって沈没し、102名を乗せた儘、“鉄製の柩”と化した「伊号第三十三潜水艦」。
9年の歳月を経て引き揚げられた艦内の一室からは、生けるが如くの13名の遺体が発見された。
命懸けで脱出した生存者の証言等を基に書き上げた、衝撃の戦史小説。
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自分が手に取ったのは、単行本の「総員起シ」。奥付を見ると、「昭和51年12月20日」に上梓された第5刷となっている。新装版の文庫本には5つの作品が収録されている様だが、単行本では「海の柩」、「総員起シ」、そして「烏の浜」の3作品だった。マヌケ様が書いておられたのは「海の柩」と思われ、又、上記の梗概はタイトルにもなっている「総員起シ」で在る。
「太平洋戦争の末期、北海道のと或る漁村に、次々と日本兵の溺死体が漂着する。其の総数は587体。彼等は、アメリカの潜水艦から攻撃を受け、沈没した輸送艦に乗っていた兵士達と思われたが、何故か其の中に将校の死体が無かった許りか、死体の多くが腕や手首が切り落とされていた。」というのが、「海の柩」のストーリー。
吉村明氏と言えば、「実際に起こった出来事に関して、其の証言や史料を周到に取材し、緻密に構成された小説を多く著した作家。」として有名。唯、此の「海の柩」に関しては、自分が調べた限り、“実在の事件”なのかどうかは判らなかったが、「587体」という妙に具体的な数字が記されている事からも、(其の儘ズバリでは無いにせよ)下敷きにした実在の事件が在ったのかもしれない。
「海の柩」を読んで最初に頭に浮かんだのは、芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」だった。「己が助かるなら、他者なんかどうでも良い。」というカンダタは、少なからずの人間が持つ「本性」を具現化した物とも言えるが、其処に「階級」やら「身分」やらという物が介在して来ると、人間はより浅ましさを曝け出してしまうのかもしれない。「体面」を保つ事に汲々としている組織に属していると、其の浅ましさを何としても隠そうと、組織的な隠蔽工作が始まったりするのだから、本当に質が悪い。
「総員起シ」は、実際に起こった「伊号第三十三潜水艦事故」を取り上げている。綿密な取材に基づいて書かれたで在ろう此の作品は、事故発生から70年経とうとしている今でも、生々しさを感じてしまう内容。特に生々しかったのは、「沈没した伊号第三十三潜水艦を“9年振り”に引き揚げた際、艦内の前部魚雷発射室で“腐敗せずに残っていた乗員13名の死体”が発見された件。」で在る。
丸で生きているかの様な死体許りで、中には「鉄鎖が首に食い込み、首吊り状態で、立った儘亡くなっている兵士。」も。「其の兵士の下半身は露出し、褌がずれて男根が“立っていた”。」という証言には驚かされたが、法医学者の話によると「理由は判らないが、縊死した男性には、しばしば見られる生理現象。」なのだとか。
9年振りに海底から引き揚げられた艦内から、丸で生きているかの様な死体が次々と発見されたというのもそうだが、死体が空気に触れた事で、凄まじい勢いで“朽ちて行く”描写も又、非常に衝撃的だった。
総合評価は、星4つ。色々考えさせられる作品だ。
子供の頃、兎に角勉強が嫌いで、馬鹿たれ人生を歩んでいた自分。其の反動か、長じてからは「様々な情報を貪欲に吸収する。」というのが、とても楽しくなりました。
ブログを運営し始めて「良かったなあ。」と思うのは、覗いて下さる方々から様々な御意見を頂戴出来る事。自身の考えに沿う物、又、沿わない物に拘らず、様々な御意見が「自身の血肉」になって行く感じがして、凄く在り難く感じています。
吉村作品は数冊しか読んだ事が無く、恥ずかし乍ら、御紹介戴いた「総員起シ」は存在すらも知りませんでした。
マヌケ様のレビューを拝読し、内容が気になって気になって仕方無くなり、実際に手に取ってみたら興味深い内容で、一気に最後迄読み進んでしまったという感じ。此方こそ、感謝に堪えません。
死体が急速に朽ちて行く・・・自分も「インディ・ジョーンズ・ シリーズ」の1シーンが思い浮かびました。