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居酒屋店主の円堂(えんどう)の下に、バブル期、共に荒稼ぎをした盟友の中村充悟(なかむら じゅうご)から電話が入る。当時、“地上げの神様”と呼ばれ、バブル崩壊後、姿を消した二見興産の社長・二見(ふたみ)の愛車で、20億円の価値が在るクラシック・カーの目撃情報が入ったと言う。20億円の車を巡って、バブルの亡霊達が蠢き出す。
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大沢在昌氏の小説「晩秋行」を読了。バブル期、地上げで莫大な金を得ていた二見が、バブル崩壊によって1千億円を超える負債を抱えた。そして、1991年9月、高級なクラシック・カーを運転している姿を見られたのを最後に、二見は忽然と消息を絶つ。暴力団を始めとする債権者達は、必死になって彼を捜すが、見付けられない儘に30年の月日が過ぎ去った。そんな中、二見が逃げた際に使っていた高級クラシック・カーが目撃され・・・というストーリー。
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「そうよ。男って本当に馬鹿だなあって思うのが、昔の女の思い出にひたるところ。とっくにあんたのことなんか忘れて楽しくやってるっていうのに、あいつは今でも俺に惚れてるなんて、感傷的になる。そういうのでお酒を飲むのが大好きなのよ。」。「ひどいことをいうな。」。「女は昔の男のことなんてこれっぽっちも思いださない。年をとったら、男よりいいものがたくさんある。おいしいものを食べたり旅行にいったり。年なりのお洒落をしたり。男はさ、いつまでも甘い思い出にひたってる。ま、安あがりといえば安あがりよね。」。
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1人の女性を、30年間思い続けている円堂もそうだが、「失恋した場合、女性は概して、比較的早く現在及び未来に目を向けるけれど、男性は失恋した過去を引き摺る。」というのは、確かに在る気がする。其れだけ、男とは馬鹿な生き物なのだ。
「持てたい。」と思っていないのに、何故か女性に持てる男性というのが居る。円堂も、そんな1人だ。何人もの女性が彼に好意を寄せるけれど、1人の女性をずっと思い続ける彼は、そんな彼女達に靡く事無く、結果的に彼女達は離れて行ってしまう。「勿体無いなあ。」と、正直思う。
30年間思い続けた女性との再会。双方に“思い”は残っているものの、過ぎ去った月日は余りにも長く、「2人は今後、どうなって行くのだろうか?」と、物語の世界の話とはいえ、気になってしまう。
ハードボイルド系の作品は苦手だが、此の「晩秋行」は抵抗感が無かった。「ハードボイルド小説に在り勝ちな、主人公の気取った言動が無いから。」だろう。
総合評価は、星3つとする。