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真っ赤に染まった小川の水。湖から魚が居なくなった本当の理由と、人魚伝説。洞窟の中、不意に襲い掛かる怪異。蛍を、大切な人にもう1度見せる事。去って行く友人に、どうしても贈り物がしたかった事。誰にも言っていない将来の夢と、決死の大冒険。
小学4年生。世界は果てしなかったが、私達は無謀だった。何処迄も、歩いて行けると思っていた。
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道尾秀介氏の小説「光」は、都会から少し離れた山間の町に住む小学4年生の利一(りいち)や同級生、そして同級生の姉を中心に、夏休みから冬の終わりに掛けての日々を描いている。
「一番好きな映画は?」と問われたならば、間髪を容れずに「『風と共に去りぬ』!」と答える自分だが、では「好きな映画のベスト10は?」となると、上位に入るのが「スタンド・バイ・ミー」。「1950年代末のオレゴン州の小さな町キャッスル・ロックに住む、其れ其れ心に傷を持った4人の少年達が好奇心から、線路伝いに“死体捜し”の旅に出る。」というストーリーで、「『日常性』と死体捜しといった『非日常性』の混在」や「様々な経験を通して成長して行く少年達。」、「彼等を待ち受ける、余りに異なった未来。」というのが印象的で、此れ迄に何度も見た程。
「光」を読み終えた時に思ったのは、「道尾版の『スタンド・バイ・ミー』だ。」と。ネット上でも同様の指摘が在るのを目にし、「同じ印象を受けた人が居たんだ。」と嬉しくもなった。「スタンド・バイ・ミー」での「死体捜し」が、「光」での「人魚の生首捜し」と重なるし、「様々な経験を通して、少年達の心に変化が生じて行く。」というのも似ているので。
第3章の「ウィ・ワァ・アンモナイツ」迄は、特に何とも思わなかったのだけれど、第4章の「冬の光」以降は、ぐっとストーリーに引き込まれて行った。利一の同級生・清孝(きよたか)は両親が居らず、偏屈で口が悪くて胡瓜の様な顔をしている事から「キュウリー夫人」と呼ばれる祖母と2人で貧しい生活を送っているのだが、彼等の関係性、そしてそんな彼等を見詰める利一達の姿に心を揺さぶられてしまったのだ。
各章の最後に、正体不明の人物が「現在」という時点から「過去」を回想している。「『子供』の時点では何とも思っていなかった出来事が、『大人』になってからとても懐かしく感じたり、ほろ苦い気持ちになったりする。」という事は結構在るけれど、其れ等の回想からはそんな思いがひしひしと伝わって来る。
「あっと驚く大どんでん返し」というのは無いのだけれど、「そういう事だったのか。」という小さな意外性は各所に盛り込まれている。「どんな大人にも、少年&少女時代が在った。」、そんな当たり前の事を思い出させてくれる小説。
総合評価は、星3.5個。