ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「トギオ」

2010年03月12日 | 書籍関連
例えば或る高名な絵画を生で見た際、どれだけじっくり見ても自分には全く訴え掛けて来る物が無いのに、周りの人間は悉く「最高傑作だ!」等と大激賞していたとしたら、「自分の感性って普通じゃないのかなあ?」と感じてしまう事だろう。「皆が皆、全て同じ感性というのも不気味。」と自分なんぞは思ってしまうけれど、それでも少なからずの人が高く評価している作品がどうにも理解出来ない時には、「何でなんだろう?」と気にはなるもの。

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捨て子の「白」を拾ったがに、大きく狂い始める蓮沼健の人生。家族は村八分遭い、健は同級生から生々しく執拗苛めを受ける。村を出た健は港町に流れ、やがて大都会・東暁(とうぎょう)を目指す事に。

生き抜く為に悪事に手を染め殺伐とした東暁で地べた這い蹲って生きる健が唯一気に掛けていたのは、村に置いて来た白の事だった。
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上記梗概は、第8回(2009年)「『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した作品「トギオ」(著者:太朗想史郎氏)に付いて。同賞の最終選考委員4名の内、3名が大激賞していた作品だ。残る1名(香山二三郎氏)は「全体的な雑さ」からこの作品を「脱落組」とし乍らも、「著者の将来は買う。」としていた。公式サイトには最終選考委員達のコメントが掲載されており、簡略かされた内容は次の通り。

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大森望氏(翻訳家・評論家): 「オリジナリティーと文章力は一級品。パワー漲る独創的な異世界SFの傑作。」

香山二三郎氏(コラムニスト): 「悪夢の様な異世界描写の数奇遍歴辿るアウトローの運命は21世紀少年達の未来像かも。」

茶木則雄氏(書評家): 「読む者の臓腑抉るかの様な、重いパンチ力に満ちた文章と、斬新な物語世界。それが牽引力のだ。一言で言って、物が違う、と感じさる異彩振りだった。」

吉野仁氏(書評家): 「本年度『このミステリーの枠を超えてすごい!』大賞は文句無しに、これ。心を鷲掴みにされてしまった衝撃の絶対最高問題作。」
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印象深い出出しによって、ぐっと読み手の心を掴んでしまう作品というのが在る。「メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。」という出出しで始まる太宰治氏の「走れメロス」はその代表例と言っても良い。この出出しを初めて目にした時に「メロスって誰?」、「何で激怒してるの?」、「邪知暴虐の王って誰?」等の疑問が浮かび、そしてストーリーに引き込まれて行った読者は結構居た事だろう。「結局、僕よりも白のほうが長生きした。僕が死んで一世紀近く経ったのに、白はそのことをずっと気にしている。」という出出しの「トギオ」も「白って何(誰)?」、「僕が死んで一世紀近く経った?」等、幾つもの疑問を多くの読み手の頭に浮かばせ、そしてストーリーに深い関心を寄せさせる事だろう。読み手の心をいきなり掴むという意味では、この作品は大いに成功していると思う。

片田舎の方言を思わせる登場人物達の言葉や、使用されている用語等、古い日本を思わせる一方で、近未来的な日本を感じさせる記述も在る等、実に不思議な世界が描かれている。それはそれで面白いとは思うのだが、如何せん様々な設定が中途半端な感じがした。今の日本をシニカル風刺しているのは判るのだけれど、あちこちに見受けられる中途半端さが感情移入辛くさせている気も。

又、余りにも説明不足な記述も、自分には合わなかった。説明過多な記述よりも、多少は説明が足りない方が、読み手のイマジネーション委ねられる部分が在って好きなのだが、それにしても余りに説明が足りない。「大賞を受賞した作品だから、その内面白くなるのだろう。」と我慢しつつ読み進めたが、結局は最後自分は面白さを感じ得なかった。最終選考委員達が何故あれ程迄に大激賞したのか理解に苦しむけれど、この作品に関しては一般的な感性と自分とのそれが乖離していたという事なのかもしれない。

総合評価は星2つ

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