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本物そっくりな動物のイメージを“表出”する事が出来る日野原柚月(ひのはら ゆずき)。同じ能力を持つ者達が所属する会社に勤めて早10年。孤独乍ら、安定した日々を送っていた。
そんな或る日、出来た許りの新研究所を警備する業務を任される。然し其処には、異能力者のパワーを増幅する、禁断の存在が隠されていた。
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「一見“普通の世界”に、するりと“異世界”を滑り込ませる。」、三崎亜記氏はそんな作風の作家。今回読了した小説「手のひらの幻獣」も、動物園や遊園地といった“普通の世界”を舞台にし乍ら、登場するのは「具体的なイメージを思い浮かべる事で、実際には其処に居ない動物を“出現”させる。」という、“表出者”と呼ばれる超能力者達。
「バスジャック」(2005年刊行)所収の「動物園」、そして「廃墟建築士」(2009年刊行)所収の「図書館」という短編小説を三崎氏は生み出しているが、此れ等の作品の主人公で在る日野原柚月が「手のひらの幻獣」に登場。三崎氏曰く「此の作品は『日野原さんシリーズ』の続編にして、完結篇に当たる。」との事。初登場時は27歳だった日野原さんも、今回の完結編では39歳という設定になっている。
「生きる上での“束縛”」というのが、「手のひらの幻獣」での大きなテーマ。文明や文化の発達が、我々をより自由で快適な環境に置いてくれると思いきや、実際には却って束縛感が増していたりする。“ボーダーレスな世の中の到来”と言われるも、“国家”や“民族”という意識に束縛され勝ちな現実。
為政者は概して、「然も国民を思っている様に見せ掛けて、言葉巧みに現実を覆い隠し、そして国民を己が好ましい方向へと“取り込んで行く”。」物だが、そんなまやかしを見抜いて行く大事さを改めて感じる。
テーマとしては凄く良いのだが、三崎作品の作風に関しては“マンネリ感”を覚えたりもする。又、予定調和的な結末も「うーん。」という感じ。
総合評価は、星2つとする。