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野良猫虐待事件をフィギュア造形の蘊蓄で解決し、父を喪った少年の心を印刷業界の蘊蓄で開く。更に、凶器が消えた奇妙な殺人事件の謎を、コスプレの知識で暴く! ? 新たな相棒・フィギュア作家の團(だん)と共に、紙鑑定士・渡部圭(わたべ けい)が様々な事件に挑む。
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小説「紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪」(著者:歌田年氏)は、第18回(2019年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の大賞受賞作品「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」の続編。
「『どんな紙でも見分け、そして売買する紙鑑定士・渡部圭(わたべ けい)。』が、『“伝説のプラモデル造形家”と呼ばれる土生井昇(はぶい のぼる)。』と共に、事件の意外な真相に辿り着く。」というのが、前作の「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」だった。紙やプラモデルという、必ずしもに超メジャーとは言えない物に着眼し、「此れでもか!」と言わん許りに関連する蘊蓄を詰め込んだマニアックさは良かったし、彼等が「Google検索やGoogleストリートビュー、Googleマップ、Google画像検索といった“ハイテクなツール”を駆使し、様々な情報を得て推理するスタイル。」も「面白いな。」と思った。
今回の続編では、土生井に加えて團なる男性が登場するのだけれど、フィギュア作家で在る彼のフィギュアに関する蘊蓄も非常に凄い。此の世界に関する知識が全く無い人にも判る様、くど過ぎない説明がされている。
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・「ああ、シリコンですか。」。「いや、シリコ“ー”ンです。」と、團は訂正した。「混同している人が多いですねえ。そもそもスペルが違うんですよ。“シリコン”というのは元素名で、日本語では“ケイ素”になります。半導体としても知られていますよね。」。「“シリコンバレー”はよく聞きます。」。「そう、そちらの意味です。一方、材料として有名なのはその化合物である“シリコーン”の方で、油や熱に強いんです。別の呼び方が“ケイ素樹脂”すなわち“シリコン樹脂”ではあるので、間違え易いんですよ。」。
・“コスプレ”とはコスチューム・プレイの略称だと聞くが、この名称は本来は衣装劇、つまり西洋の歴史劇のことを指すはずだった。いつから混同されるようになったのかはわからない。
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様々な蘊蓄に触れるのは楽しい。でも、肝心な謎解きの部分で言えば、杉村太蔵氏同様に“薄味”な感じが否めない。「読者をもっと『あっ!』と驚かせる様な、真犯人やトリックを用意して欲しい。」と、ミステリー・ファンとしては思ってしまう。
総合評価は、星3つとする。