辻真先氏は推理作家としてのキャリアも長いけれど、アニメ&特撮脚本家としてのキャリアは更に長い。1960年代初めから脚本家として活躍されており、此方を見れば御判りの様に、担当された作品は有名な物許り。
そんな彼の作品「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」(総合評価:星3.5個)が、「2020週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」及び「このミステリーがすごい! 2021年版【国内偏】」では1位、そして「2021本格ミステリ・ベスト10【国内偏】」では4位と、ミステリー関連の年間ブック・ランキングで軒並み高い評価を得たのは昨年の事。90歳間近にして現役、尚且つ高評価の作品を生み出しているのだから、本当に凄い事。
「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」は「<昭和ミステリ>シリーズ」の第2弾で、第1弾は「深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説」(総合評価:星3つ)。「昭和という時代を舞台に、那珂一兵(なか いっぺい)が探偵役として謎を解く。」というのが「<昭和ミステリ>シリーズ」だが、第1弾の時代設定は「昭和12年」で、一兵は「銀座で似顔絵描きをし乍ら、漫画家への夢へ邁進している14歳前後の少年。」。
そして、第2弾の時代設定は「昭和24年」で、一兵が探偵役なのは変わりが無いものの、主人公として「名古屋市内の新制高校3年生で、ミステリー作家を目指している風早勝利(かざはや かつとし)。」が登場する。
************************************************
生放送中のTVスタジオで、主演女優・中里みはる(なかざと みはる)が殺害された。自らが手掛けたミュージカル仕立てのドラマ撮影現場での殺人に、駆け出しのミステリー作家・風早勝利と、名バイプレイヤー・那珂一平が挑む。
************************************************
今回読んだ「馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ」は「<昭和ミステリ>シリーズ」の第3弾にして、時代設定は「昭和36年」。「29歳の勝利はミステリー作家、38歳の一兵はCHKテレビ美術課契約職員。」で、第1弾や第2弾に登場した他の人物達も、ちゃんと年齢を重ねて登場している。
“日本のTV放送黎明期”には個人的に興味が在り、関連する文献を結構読んで来た。此の時代、実際にNHKで制作進行等に関わっていた辻氏だけに、描かれている内容には“生々しさ”を感じる。
作品内で「CHKテレビ」と記されているのは、渋谷に移る前の「NHK」の事だろうが、「夢であいましょう」や「シャボン玉ホリデー」、坂本九氏、森繫久彌氏、雪村いづみさん、浦辺粂子さん等々、当時の人気TV番組や人気者達が実名で登場しているのが、良い意味で生々しさを増させているのだ。
「当時、『TVドラマを生放送する。』という“離れ業”が普通に行われていて、出演者が台詞を忘れてしまったり、映ってはいけない物が映り込んでしまったり、決まっている放送時間に入り切らなかったり、逆に早く終わってしまって、意味の無い金魚鉢だけを終了時間迄映していたり、当時のTVライトは異常な程の高熱を発していたので物が燃えてしまったりした。」等の逸話は見聞していたが、「こんな事も在ったんだ。」という他の逸話が書かれていて、日本のTV放送黎明期に現場で働いていた人達の大変さを改めて感じると共に、当時の制作現場を包んでいた熱気に羨ましさを感じる部分も。
“多くの目が在る中での殺人事件”というのは、ミステリーの題材として興味を強く惹かれる。けれど、明らかになった真相は、ミステリーでは手垢が付いた感の在る物でガッカリ。意外な人間関係は悪く無かっただけに、とても残念だ。
総合評価は、星2.5個とする。