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植物学者になる夢に挫折し、寂れた田舎の生花店「ドリアード」で働く草壁大樹(くさかべ たいき)。父の怪我を切っ掛けに、女子高生の柊青葉(ひいらぎ あおば)をアルバイトとして雇うが、彼女は「植物の声を聴く事が出来る。」と言うのだ。半信半疑だった大樹だが、青葉が聴いた樹木の“証言”の御蔭で、と或る事故の真相を突き止め、彼女の能力が本物で在る事を確信する。軈て大樹達は、町の迷惑老人が抱える、町の御神木“御化け檜”に関わる記憶の探索に取り組む事になり・・・。
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第19回(2020年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の隠し玉に選ばれた小説「静かに眠るドリアードの森で 緑の声が聞こえる少女」(著者:冴内城人氏)は、「『植物学者になる。』という夢が破れ、屈折した思いを抱える草壁大樹。」と「『植物の声を聴く事が出来る。』という女子高生・柊青葉。」の2人が、“御化け檜”に関する謎を解くというストーリー。
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「染井吉野は、江戸時代に野生の桜を掛け合わせた品種なんだよ。そこから接ぎ木や挿し木で数を増やしたから、世界中にある染井吉野は全部同一遺伝子のクローン。一斉に咲いて散るのはそのせい。」。
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植物学者を目指していた草壁大樹が主人公という事も在り、植物に関する蘊蓄が鏤められている。「そうなんだ。」と勉強になる。
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[問題]或る日、急な坂道で、重いリヤカーを大人の人が前で引っ張り、小さな子供が後ろから押していた。聞けば、2人は間違い無く親子らしいのだが、前でリヤカーを引いている人に、「後ろで押しているのは、息子さんですか?」と尋ねたら、「違います。」と言う。後ろで押している子供に「前で引っ張っているのは、御父さんですか?」と尋ねたら、「違います。」と言う。扨、此れはどういう事になっているのだろうか?
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心理学者の多湖輝氏が著した思考パズル本「頭の体操」に取り上げられていた問題の中で、自分が好きな物の1つだ。答えは「母親と娘だった。」で、“急な坂道”や“重いリヤカー”という事から、「2人は男性。」という思い込みが生まれ易い事を逆手に取った問題。
「静かに眠るドリアードの森で 緑の声が聞こえる少女」では最後の最後に“記述からの思い込みによるどんでん返し”が在り、此の点に関しては「騙された!」という“遣られた感”は在るが、全体としては「あまり驚きが無いなあ。」というのが正直な感想。「青葉は、本当に植物の声を聴く事が出来るのか?」は、結局良く判らなかったし、何よりも“真犯人”の“犯行動機”が「そんな事で?」と思ってしまう様な物だったりと、もやもや感が強く残った。
近年の「『このミステリーがすごい!』大賞」では、最終選考に残った大賞受賞作品“以外”の作品から上梓される物が増えている。中には今回の作品の様に、「敢えて上梓する内容かなあ?」と首を捻ってしまう物も、そこそこ在ったりする。「賞の価値を下げない為にも、運営者サイドは上梓乱発を控えた方が良い。」と、老婆心では在るけれど思う。
総合評価は、星2.5個とする。