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「黒い依頼」-誤報と虚報
「共犯者」-誤報と時効
「ゼロの影」-誤報と沈黙
「Dの微笑」-誤報と娯楽
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塩田武士氏の小説「歪んだ波紋」は、5つの短編小説で構成されている。「“誤報”に翻弄される人々の姿を描く事で、現在のメディアが抱える問題。」を浮かび上がらせている。
新聞やTV、週刊誌といった従来のメディアは、インターネットの普及により、大きな“地殻変動”が起きている。インターネットが普及する以前、「大々的に情報を拡散させる。」事が出来たのは新聞等、マス・メディアでないと難しかったが、インターネットの普及により、個人でもあっと言う間に、そして大々的に情報を拡散出来る様になった。時には、マスメディアよりも迅速且つ大々的に拡散する事も在るのだから、“組織”を維持する為に莫大な費用を必要とするマス・メディアが“売り上げ”を低下させ、「売り上げを、何とか回復させ様。」と地殻変動を起こしているのは、止むを得ない事なのかも知れない。
「インターネットの普及により、個人でもあっと言う間に、そして大々的に情報を拡散出来る様になった。」というのは、其れは其れで凄い事なのだけれど、問題も多い。一番の問題は、「其の情報が、事実なのかどうか?」という事。事実と信じ込んで拡散させた嘘情報も在れば、明らかに嘘と判って拡散させた情報も在ろうから。多くの人達に、情報リテラシーがより強く求められている時代。
そんなインターネット情報に対抗するべく、マス・メディアの中には“禁じ手”を使ってしまう所も出ている。過去に幾つか在ったけれど、「裏を取らないで、嘘情報を流してしまった。」り、「“売り上げ”を伸ばす為、明らかな嘘情報を流した。」り等だ。「歪んだ波紋」では、「メディアに身を置く(又は置いていた)人達が、誤報とどう向き合うか?」が描かれている。
5つの章、全て別の人物の視線でストーリーが進んで行くが、無関係と思われた人達が徐々にリンクして行く。去年読んだ「罪の声」でも感じた事だけれど、塩田氏の“読ませる文章力”には脱帽。
総合評価は、星4つとする。