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今日は年に1度のイヴェント、「書店大賞」授賞式の日。成風堂に勤める書店員の木下杏子(きのした きょうこ)とアルバイトの西巻多絵(にしまき たえ)は、初めての授賞式参加と在って、華やいだ気分で一杯だ。ところが朝の業務を終えて出掛け様という矢先に、福岡の書店員・佐々木花乃(ささき はなの)が“書店の謎を解く名探偵”に会いに成風堂を訪れる。書店大賞事務局に届いた不審なFAXの謎を、名探偵に解いて欲しいと言うのだ。
一方、明林書房の新人営業マン・井辻智紀(いつじ ともき)も、全国から書店員が集まる今日を有意義に過ごすべく、準備万端調えていた。其処へ、他社の営業マン・真柴司(ましば つかさ)から、「今直ぐ来い。」と呼び出しを受ける。書店大賞事務局長の竹ノ内(たけのうち)が、今日のイヴェントに関わる重大問題に頭を抱えているらしい。
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元書店員という経歴の作家・大崎梢さん。彼女が生み出した人気シリーズ「成風堂書店事件メモ・シリーズ」と「出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズ」のキャラクター達が“コラボ”した作品が、昨年11月に上梓された「ようこそ授賞式の夕べに ~成風堂書店事件メモ(邂逅編)~」。
“本が売れない時代”と言われる様になって久しい。「受賞作品は、爆発的に売れる。」と言われて来た芥川賞及び直木賞受賞作品ですら、近年は昔日程の売れ行きでは無いと聞く。両賞の受賞作品がそんな感じなのだから、濫造される文学賞の受賞作品の売れ行きは言わずもがなだろう。
そんな中、例外的な存在が「本屋大賞」。「著名な作家や文学者が選考委員を務める。」という他の文学賞とは異なり、「新刊を扱う書店(オンライン書店を含む。)の書店員の投票によってノミネート作品及び受賞作が決定する。」という画期的なシステムで2004年に設立され、今や「受賞作のみならず、ノミネートされた作品も非常に売れる。」のだそうだ。確かに本屋大賞関連の作品は、書店の目立つ場所に山積みされている。
書店員が選ぶという事で、“読者目線”に近い文学賞とも言える。順位が発表される時期(4月)にはマス・メディアで大きく取り上げられる様になったし、「小説の売り上げ増に寄与。」する等、出版界の救世主的存在となった同賞だが、広く知られる様になった事で、批判される面も出て来た。
「設立当初は、一般的に余り知られていない名著が取り上げられていたりしたが、近年は、既に或る程度売れている作品許りが選ばれるので、新鮮味が全く無い。」、「出版社サイドが“売りたい作品”を、書店員達に対して強烈に根回ししているのではないか?」等だ。
「ようこそ授賞式の夕べに ~成風堂書店事件メモ(邂逅編)~」に登場する「書店大賞」は、明らかに「本屋大賞」を意識した物だろう。“一般的には余り知られていないで在ろう書店での出来事”が鏤められているのは、元書店員ならではの作品という感じだが、「書店大賞」の裏側を読む事で、「本屋大賞にも、似た様な面が在るんだろうなあ。」と推測出来て、其れは其れで興味深い。
残念なのは、肝心なストーリー。「ぐいぐいと、作品の世界に引き込まれて行く。」のが大崎作品の魅力だが、此の作品に関しては凡庸なストーリー。「大崎作品の有名キャラクターが勢揃い!」と顔見世興行的な色合いが強過ぎて、ストーリーが薄くなってしまった感じがする。展開に“驚き”が無かったし、正直ガッカリな内容。
総合評価は、星3つとする。
株主優待制度の御蔭で、年間一定回数迄映画が無料で観られる為、其れを利用して劇場に足を運んでおりますが、其れが無かったら、「絶対に観に行こう!」と迄思う作品は、年々減っています。ベストセラー小説や漫画、人気ドラマと安直にタイアップした作品が増えている事も、「御金を出して迄、観に行きたいとは思わない。」という思いにさせてしまう。
出版界の「本を売りたい!」という気持ちは判るし、そういう思いからのイヴェントも否定はしないけれど、「読者を無視した、売れさえすれば其れで良い。」という思いが余りにも露骨に出てしまうと、読者だって馬鹿じゃないですから、白けてしまう。