ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「バスジャック」&「さいえんす?」

2005年12月30日 | 書籍関連
無駄に忙しかった日々も峠を越し、気分はすっかり年越しモード。正月にかけて久し振りに海外を旅しようと目論んでいたが、燃油サーチャージ等を含めると旅行費用の割安感が吹っ飛んでしまった事や、予定していたアジア圏に住む知人達から「今回流行している鳥インフルエンザは、従来とは一寸が違う様に思われるので、渡航は控えた方が賢明かも。」というアドヴァイスを貰った事で、残念ながら国内で年末&年始を迎える事と相成った。悔しいので、これ迄時間的になかなか出来なかった事をしたいと思っている。読みたかった本を読破するのもその一つ。

先ずは三崎亜記氏の「バスジャック」を読破。彼は「となり町戦争」という作品で第17回小説すばる新人賞を受賞している。「隣接する町役場同士が契約を結び、利益も目的も判らない『公共事業』としての戦争を行う。」という荒唐無稽不条理な内容ながら、根底には現代日本人に対する痛烈な風刺が在ると評価されている「となり町戦争」で、若い層を中心に注目を集めている作家というのは聞き及んでおり、以前から彼の作品を読んでみたいと思っていた。

「バスジャック」は7つの短編&中編作品を集めたものだが、どれもが非現実的な世界を上手く日常世界に織り込んだ実に風変わりなテースト。こういった作風は、読む側の嗜好で好き嫌いがハッキリ別れる様に思う。個人的には「送りの夏」という作品が印象に残った。

乙一氏や伊坂幸太郎氏、宮部みゆき女史等の作品とは少々波長が合わない自分だが、何処と無く星新一氏の作風を思わせる三崎氏の作品は、今後の進化に注目したい所。

そして、もう一冊読破したのは東野圭吾氏の「さいえんす?」。世の中の様々な事象に関して、東野氏が”理系人間”の視点で綴ったエッセイ集。どれも興味深い内容なのだが、此処では「本は誰が作っているのか」というエッセイを紹介したい。

嘗て、作家の印税10%という話(今では、それを下回るケースも在る様だ。)を聞いた際、その余りの少なさに驚いたものだった。呻吟&苦悩し、全身全霊を注ぎ込んで生み出された作品の対価が、作品が映像化された際には別途の実入りが在るとはいえ、それ以外は売上の10%だけというのでは報われない気がしたからだ。又、出版社が利益を独り占めしているのではないかとも思った。

本が売れた際、その金の経路は次の様なループとなる。

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読者が書店で本を購入。 → その代金が書店等を通じて出版社に入る。 → 出版社は経費等を差し引いた利益で作家に印税を払う。 → 作家はその金で生活しつつ、次の作品を書く。 → 作家は書いた原稿を出版社に渡す。 → 出版社はそれを本にして書店に配る。 → 書店に本が並ぶ。 → 読者が書店で本を買う。
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東野氏は作家の世界は相撲部屋と同じ。と記している。相撲取りで給料が貰えるのは十両以上、つまり関取と呼ばれる人達だけで、十両未満の力士達は無給。そんな彼等を養ってくれるのが相撲部屋で、その金は相撲協会から出ている。では、その金は誰が稼いでいるのかと言えば、勿論、十両未満の力士も相撲を取ってはいるものの、多くの観客の目当ては十両以上の取り組みで在る事を考えると、十両以上の関取が稼いでいると言えよう。要するに、横綱を始めとする関取達が頑張って観客を呼んでいる事で、相撲協会に金が入り、ひいては十両未満の力士達を養っているという構図。作家の世界も、この構図と同じだと彼は指摘している。

東野氏がデビューして間もない頃、或る編集者と交わした会話が載っていた。その編集者の出版社で本を出したものの初版止まりで、尚且つかなり売れ残っている事を知った東野氏が、「売れなくて申し訳ない。」といった発言をした所、その編集者は笑顔を浮かべて次の様に答えたのだとか。

東野さんで儲けようとは思っちゃいませんよ。うちには西村京太郎さんや赤川次郎さんの本が在りますから、そっちで稼がせて貰ってます。東野さんの本が少々売れたって、その先生方の利益の誤差範囲ですから。

その時は、随分失礼な事を言う人だなあと東野氏は思ったという。しかし、今から考えると、彼の意見は正しかったと振り返っている。当時の発行部数では、黒字を出した所で、編集者1人の給料を賄える程度だったからと。西村京太郎氏や赤川次郎氏等の売れっ子作家がもたらす莫大な利益が在るからこそ、当時の自分の様な売れない作家にも出版社は仕事をくれた訳で、いずれはそれなりの利益をもたらしてくれるだろうという期待を込めての未来への投資だったと東野氏は記している。

そんな環境が変わりつつ在るのは、書店で正規の料金を支払って本を購入してくれる読者が減って来た事に在る。図書館やブックオフが幾ら賑わっても、その賑わい程度に比例した金が出版社に入って来る訳ではない。図書館では1冊の本を多くの人が廻し読みし、ブックオフで売れた本に関しては出版社に一文入って来る訳ではないからだ。

「制度改革に付いて此処で主張する気は無い。」と前置きした上で、東野氏は次の文章で最後を締めている。

図書館やブックオフを利用する事を、罷り間違っても、『賢い生活術だ。』と思って貰いたくない。そう考える事は、出版業界を支えている購買読者達への、とんでもない侮辱で在る。

懐の寒さを理由に図書館で本を借りる事が多くなった自分には、心の痛みを感じさせる文章だ。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
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4 コメント

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TBありがとうございました。 (aorta)
2006-01-08 23:09:40
こちらからもTB送っておきました。

僕も図書館をよく利用するので耳が痛いです。

今年はできるだけ本屋で本を買って、作家先生の懐を暖かくしようと決意しました。
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バスジャック (やな)
2006-01-08 21:20:49
トラックバックありがとうございました!

三崎さんの作品は「となり町戦争」も読んだの

ですが、「バスジャック」はまた全然違った

作風で面白かったです。次回作も楽しみですね♪



私も本は図書館で借りる事が多いので、

この問題は心がイタイです。













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Unknown (かれん)
2006-01-08 11:42:35
TBありがとうございました。

笑いながらも、立ち読み、図書館大好きな私に、この本は心に突き刺さりながらも、興味深く読めました。

図書館で読んで手元に置きたくなった本をブックオフで買っている私は、賢い読者ではありませんが、blog等で宣伝させていただくということで、許していただけないものかと思っています(笑)

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図書館 (syuu)
2005-12-31 00:05:06
 せわしないちびこのいる私にとって、図書館は行きたくてもなかなか行けない場所のひとつになっていますが、図書館も好きですね。本は新品じゃないけれど、あの古い本の香り・・・。

 でも、出版業界の人たちのことを考えると、そうも言っていられないのですね。かなり考えさせられました。

 さて、今年もあと1日で終わりですね。今年はgiants-55さんに出会うことが出来て、本当に嬉しく思っています。一つ一つのブログネタに、フムフム・・・と考えさせられたり、「目からうろこ!」みたいなことがあったり・・・。父と子供の件では、暖かいコメント、本当にありがとうございました。

 来年も、どうぞよろしくお願いします。

 giants-55さんにとって、2006年が素晴らしい年となりますように。

 つまらないものですが、「ありがとうカード」をgooメールにて送らせていただきました。
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