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刑務所の直ぐ隣という、特殊な環境に立地する総合病院に勤務する腕の良い脳外科医の尾木敦也(おぎ あつや)。彼は6年前に父母を強盗に殺害されて以来、精神的に不安定になり、深刻なスランプに陥っていた。そんな或る日、刑務所から蜘蛛膜下出血で搬送されて来た“スペ患”の執刀を、院長命令で担当する事になる。
緊急開頭手術で命を救う事は出来たものの、スペ患の正体が両親の命を奪った死刑囚・定永宗吾(さだなが そうご)だった事を知り、尾木は懊悩と悔恨の迷路に彷徨い込む。そして定永は、逮捕と死刑の判決以降も、自身の犯行を一貫して否認していた。術後のリハビリを通して、尾木と妹の看護師長・菜々穂(ななほ)は、定永という人間と6年前の事件に、改めて向き合う事になるのだが・・・。
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「教場シリーズ」等で知られる小説家・長岡弘樹氏。そんな彼の作品「殺人者の白い檻」は、「両親を殺害した死刑囚の“命”を、医師と看護師という立場から救わなければならなくなった兄と妹の姿。」を描いている。「憎むべき相手と、“遺族”として対峙すべきなのか?其れとも、“医療従事者”として対峙すべきなのか?」という、我が身を彼等に置き換えた時に深く考えさせられるテーマに加え、「定永は、本当に両親を殺害したのか?」等、ミステリーの要素が読者を待ち受けている。
「特定の分野の蘊蓄が鏤められている。」というのは長岡作品の魅力の1つで、此の作品でも変わらない。「知らなかった情報を、新たに蓄積出来る。」というのは読書の素晴らしさの1つだが、其れは充分堪能出来る。
唯、惜しいかな、此の作品には読者をぐいぐいと引き込んで行く魅力に欠けている。他の長岡作品と比べると、ストーリーもミステリーの要素も、全体的に弱いのだ。或る記述により、比較的早い段階で“真犯人”の見当は付いたし、言葉は良く無いけれど「長岡作品だから、何とか惰性で読み切った。」という感じ。大した盛り上がりも無い儘、結末に到る事に。
総合評価は、星3つとする。