ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「空白の桶狭間」

2009年07月29日 | 書籍関連
名古屋に住んでいた幼少時、家族で中京競馬場に何度か行った。馬の疾走する姿に美しさを感じるも、当時は併設された遊び場で専ら過ごしていた。中京競馬場へは車で行っていたが、その近くになると目に付く地名が「桶狭間」。日本史に未だ興味を持っていなかった頃なので、「」と「狭間」という言葉の繋がりの面白さが印象に強く残るも、「其処で大昔に何が起こったか?」に思いを馳せる事は無く、長じて日本史に触れる様になってから「桶狭間の戦いの場所だったのか。」と知る事に。実際に桶狭間古戦場を見に行ったのは、名古屋を離れてウン十年経ってからだった。

駿河戦国大名今川義元は勢力を拡大して行き、天下制覇を狙う有力候補の一人と見做されていた。そして彼の次なる領地奪取のターゲットは、織田信長が支配する尾張。約2万5千人の今川軍に対し、信長が動員可能な兵力は5千人程がせいぜいとも言われ、信長の命運も尽きるのは時間の問題と思われていた。そんな中、信長が少数の兵隊を引き連れて敵本陣を奇襲、義元を討ち取った場所が桶狭間。「日本史上、最も華々しい逆転劇」とも称されるこの戦いで、信長は一気に戦国の目される様になったと言える。この桶狭間の戦いをテーマに据えた小説が、加藤廣氏の「空白の桶狭間」。

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今川義元の不気味な触手が尾張へ伸びる。相互不信と玉砕主義が蔓延する織田家中剛毅に振る舞う信長でさえ、「内実は判断停止状態。」と新進足軽頭・木下藤吉郎、後の豊臣秀吉は見抜いていた。“影の人々”を操り、秀吉がは何をしようというのか?
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加藤氏が著した「信長の棺」、「秀吉の枷」、「明智左馬助の恋」は“本能寺三部作”とも呼ばれるが、「本能寺の変の“実行犯”は秀吉。」という推測を基に、3人の視点を通してそれぞれストーリーが展開されている。「空白の桶狭間」は本能寺の変が起こる23年前の1559年からストーリーが始まっており、その主役は若き秀吉。信長の高き能力に魅せられて家臣になった秀吉が、その行状を間近で見て行く中で信長に不信感を覚えて行く過程が描かれている。

今川軍の圧倒的な戦力を前に、「捨て駒とされるのではないか?」と信長に対して疑心暗鬼になって行く織田家臣達。根は陽気な秀吉も、その例外では無い。様々な策略を張り巡らして自身の命運、そして延いては織田家の命運も繋ぎ止めた秀吉。しかし、その手柄が表沙汰になる事は無く、秀吉の中にジェラシーの芽が生じ、それがやがて払拭し難い不信感へと高まって行く訳だ。

「空白の桶狭間」の「空白」は、恐らく「秀吉の心の中の空白」を意味しているのだろうが、個人的には何となく「曖昧模糊としたタイトル」の様に感じられ、その点が残念だ。唯、「ストーリー展開」と「人物描写」の上手さは相変わらずで、一気に読破してしまった。

総合評価は星3.5個

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