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「静おばあちゃん」事高遠寺静(こうえんじ しずか)は、日本で20人目の女性裁判官で、80歳となった今も信望が厚く、孫で大学生の円(まどか)と様々な事件を解決して来た。
今回、静おばあちゃんとコンビを組むのは、「要介護探偵」事香月玄太郎(こうづき げんたろう)。不動産会社「香月地所」を一代で築き上げた玄太郎は、名古屋では「立志伝中の人物」と言われ、口が悪いが、皆から慕われてる。
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小説「さよならドビュッシー」で、第8回(2009年)「『このミステリーがすごい!』大賞」を受賞し、文壇デビューを果たした中山七里氏。以降、「さよならドビュッシー」は「岬洋介シリーズ」の第1弾という事になるのだが、其のスピンオフ作品として2012年に上梓されたのが「さよならドビュッシー前奏曲 要介護探偵の事件簿」。
“猛々しい気性”で“粗野”、“傍若無人”だけれど、正義感の強い老人・香月玄太郎は、脳梗塞を罹患した事で、車椅子生活を送る事になる。そんな玄太郎が、“要介護探偵”として事件を解決するのが“要介護探偵シリーズ”。「部屋から出る事無く、或いは現場を訪れる事無く、事件を推理する探偵。」の事を“安楽椅子探偵”と呼んだりするが、玄太郎の場合は部屋から出るどころか、事件現場もどんどん訪れ、“立場”を利用して警察を顎で使う。
又、中山氏には、「静おばあちゃんにおまかせ」という作品が在る。元裁判官の高遠寺静が謎を解く内容だが、「静おばあちゃんにおまかせ」では、静は安楽椅子探偵の役割。即ち、静自身は家から出る事無く、孫の円から事件に関する報告を得る事で、謎を解くのだ。
今回読了した「静おばあちゃんと要介護探偵」、“静おばあちゃんシリーズ”としては第2弾という事になるが、シリーズの枠を超えて、玄太郎と“共演”。高齢者コンビで謎を解くのだけれど、アクティヴな玄太郎に影響され、静もばんばん事件現場を訪れる事に。
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いったい、いつからこの国は老いること、弱くなることを悪徳と捉えるようになったのか。以前であれば老いることは成熟の証であり、弱くなることは庇護の対象になったはずだ。それがここ十年の間にすっかり様相が変わってしまった。弱肉強食ではあるまいし、経済力や地位の後ろ盾がなければ、おちおち齢を取ることも病気になることもできなくなってしまった。
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登場人物には高齢者が少なく無い。高齢者を邪魔者扱いしたり、食い物にする連中が増えている現実を、作品に投影させているのだろう。
「『常識や体裁なんぞは糞食らえ!』といった感じで、自身のスタイルを押し通して暴走する玄太郎。」と、「『情念よりも論理。』という考えで自らを律し、不承不承乍らも玄太郎の“御目付け役”となる静。」という組み合わせは悪くは無いのだが、如何せん玄太郎の“灰汁”が強過ぎて、個人的にはうんざりさせられた。
又、肝心の“犯人”及び“トリック”に意外性が余り感じられなかったのも、失望感を高める事に。
総合評価は、星3つという感じか。