東野圭吾氏のエッセー集「たぶん最後の御挨拶」に、「『巨人の星』は『葉隠』の世界である」というエッセーが載っている。大阪で生まれ育った東野氏はアンチ・ジャイアンツで、ONですらも嫌いな程。ジャイアンツに漂うエリート意識が気に食わず、ジャイアンツに関係する物は殆ど嫌いだった彼だが、「週刊少年マガジン」に連載された「巨人の星」には熱狂したという。その理由を彼は「『巨人の星」は高校球界やプロ野球界を舞台にしているものの、星飛雄馬を始めとした登場人物達がやっている事は野球では無く、野球に似た別の物。それは球技だとかスポーツだとかいう代物では無く、『巨人の星』に於ける野球は格闘技、もう一歩進めて、武道と言えるから。」としている。チームの勝敗等は完全に二の次で、一対一の選手の戦いが全て。ライバルとの血みどろの戦いに勝つ為に、「ボールに油を塗って火を付け、それをノックして捕球させる。」といったまともな人間なら絶対に考えもつかない特訓を課す。これは野球という平和なスポーツの話では無く、どこから見ても武芸者達の世界で在り、葉隠の世界だと。
そして、その一対一の勝負は御互いの好不調に拘わらず、一試合若しくは一打席の結果”だけ”で決定され、良くプロ野球中継で耳にする様な「この両者の今シーズンの対戦結果は、十二打数三安打ですから、○○投手がまあまあ良く抑えていると言って良いでしょうね。」等という”中途半端”な、「まあまあ」なんていう概念は存在し得ない世界で、要は100%抑えるか、打たれるかのどっちか。一発打たれると、星飛雄馬はまるで生きる望みを無くしたかの様に落ち込み、悩んでしまう。これはもう勝負に敗れた武芸者そのもので、決して単なる野球の投手等では無い。武芸者が死闘を繰り返しながら成長して行く様に、星飛馬も又戦いに敗れ、ズタズタになりながらも、又新たな技を編み出してライバル達に立ち向かって行く訳で、それが大リーグボール一号や消える魔球(大リーグボール二号)等の魔球と東野氏は記している。
自分が子供だった時分、スポーツ漫画やスポーツ・アニメと言えば野球をテーマにした物が殆どで、それ等は”スポ根モノ”(スポーツ根性モノ)と称されていた。「巨人の星」(動画)以外に「アストロ球団」や「アパッチ野球軍」、「キャプテン」、「男どアホウ甲子園」、「野球狂の詩」、「ドカベン」等々数多の野球漫画(アニメ)に魅了されて来たが、最も夢中になったのは「侍ジャイアンツ」だった。*1最初に見たのはアニメ(動画)の方で、その後に原作漫画を何度も読んだという経緯。そのストーリーの面白さも然る事乍ら、自分を熱くさせてくれた最たる要因はやはり、主人公の番場蛮が次々に編み出す魔球に在った。
唯、この作品に夢中になりながらも常に疑問に感じていたのは、「魔球をライバルに打たれたからといって、何故直ぐにその魔球を投じるのを止め、新しい魔球開発に走ってしまうのだろうか?」という点。
*****************************
① ハイジャンプ魔球
マウンド上で空高くジャンプし、そのトップからボールを投げ下ろす魔球。ジャンプして投げるという関係上、守備態勢に入るのが遅くなるという欠陥を見抜いたライバルの眉月光(アトムズ)が、バントでピッチャー前に球を転がしてヒットにすべく、何とかバットに球を当てる事には成功。完全に打ち崩したのは大砲万作(ドラゴンズ)で、人並み外れたパワーを元にバントの態勢から振り抜くという、”荒勢のガブリ寄り”の様な荒技。
② エビ投げハイジャンプ魔球
海老の様に身体を反らせてからハイジャンプ魔球を投じる事で球威を増させると共に、投じる際の手が見え難い事から打者の反応を遅らせるメリットを有する。番場がジャンプすると同時に自らも同じ高さ迄ジャンプして逸早く球筋を見切り、着地と同時に打ち放ったウルフ・チーフ(タイガース)。
③ 大回転魔球
マウンド上で投球モーションが見えない程の超高速回転をし、そこから直球を投げ込む魔球。「番場と同様に打席で超高速回転をしつつ打とうとしたウルフ・チーフ」、「ボールに対する反応力を高める特訓を積み、番場の回転を全く無視して、球筋を逸早く見切る事に注力した大砲万作」とライバル達が色々試みたが、実際に打ち崩したのは眉月光。その方法は裏に滑り止めの鋲が打たれていないツルツルのスパイクを履き、バッターボックスの一番前に立ち、バントの態勢で球をバットに当てる。恐るべき球威により身体共バッターボックスの後ろ迄持って行かれるが、その時点で球威はかなり減じられており、その状態からバットを振り抜いてホームランにするというもの。
④ 分身魔球
ボールを握り潰して投げる事で不規則な変化を起こさせ、投じた球が幾つにも分かれた様に見せる。分身魔球が横方向の一定軌道で在る事に着眼したウルフ・チーフが、短く持ったバットを魔球の変化軌道に合わせて振りながら、手を緩める事でバットの握り位置を調節して打ち込んだ。
⑤ 分身魔球(縦変化バージョン)
サイドスローから分身魔球を投じる事で、縦変化を生じさせたもの。ワールド・シリーズの為に来日したロジー・ジャックス(アスレチックス)が、バットを縦方向に振り抜く事で打ち崩した。
⑥ ミラクルボール(ハイジャンプ大回転分身魔球)
これ迄に開発した魔球を全て組み合わせた魔球。あらゆる方向に変化し、更に幾つも分身するというとんでもない代物で、結局は誰も打ち崩せなかった。(動画)
*****************************
アニメ版に登場した魔球だけを列挙してみた*2(漫画版には「ハイジャンプ大回転魔球」及び「ハラキリシュート」が存在。)が、これを見ても御判りの様に(ミラクルボール以外の)魔球は打ち崩されたといっても、常人では無いスーパー・ミラクルな選手によって打ち崩されただけの事で、他の選手達ならば先ず打ち崩す事は出来なかったと思うのだ。故にライバル達に魔球を打ち崩されて以降も、彼等達(ライバル達)は徹底的に敬遠するなりして勝負を避け、他の選手にはバンバン魔球を投げ続ける事で勝ちを収めるのは充分可能だったろう。「何故その道を番場は選ばなかったのか?」、「番場は諦めが良過ぎるのでは?」と思った訳だが、「魔球を次から次に開発しなければ、アニメ(漫画)の展開がつまらないからだろ。」といった”正答”はさて置き、そういったセコイ手は葉隠の世界観と相容れないという事なのだろう。
*1 「巨人の星」及び「侍ジャイアンツ」に登場するライバル達には、御互いに雰囲気が似た選手が居る。「花形満(タイガース)は眉月光」、「左門豊作(ホエールズ)は大砲万作」、「アームストロング・オズマ(ドラゴンズ)はウルフ・チーフ」といった感じ。ライバルと言ってしまうのは何だが、「飛雄馬の大親友にしてジャイアンツからドラゴンズに移籍した伴宙太は、番場の先輩にしてパートナーだった八幡太郎平(ジャイアンツ)」に”存在意義”が似ていると言えるだろう。
尚、漫画版「侍ジャイアンツ」は、優勝争いをしていたドラゴンズとの試合でライバルの大砲万作を打ち取った番場蛮が、全ての力を使い果たし、マウンド上に突っ立ったままで絶命するという強烈なエンディングだった。
*2 こちらのサイトを参考にさせて貰った。
そして、その一対一の勝負は御互いの好不調に拘わらず、一試合若しくは一打席の結果”だけ”で決定され、良くプロ野球中継で耳にする様な「この両者の今シーズンの対戦結果は、十二打数三安打ですから、○○投手がまあまあ良く抑えていると言って良いでしょうね。」等という”中途半端”な、「まあまあ」なんていう概念は存在し得ない世界で、要は100%抑えるか、打たれるかのどっちか。一発打たれると、星飛雄馬はまるで生きる望みを無くしたかの様に落ち込み、悩んでしまう。これはもう勝負に敗れた武芸者そのもので、決して単なる野球の投手等では無い。武芸者が死闘を繰り返しながら成長して行く様に、星飛馬も又戦いに敗れ、ズタズタになりながらも、又新たな技を編み出してライバル達に立ち向かって行く訳で、それが大リーグボール一号や消える魔球(大リーグボール二号)等の魔球と東野氏は記している。
自分が子供だった時分、スポーツ漫画やスポーツ・アニメと言えば野球をテーマにした物が殆どで、それ等は”スポ根モノ”(スポーツ根性モノ)と称されていた。「巨人の星」(動画)以外に「アストロ球団」や「アパッチ野球軍」、「キャプテン」、「男どアホウ甲子園」、「野球狂の詩」、「ドカベン」等々数多の野球漫画(アニメ)に魅了されて来たが、最も夢中になったのは「侍ジャイアンツ」だった。*1最初に見たのはアニメ(動画)の方で、その後に原作漫画を何度も読んだという経緯。そのストーリーの面白さも然る事乍ら、自分を熱くさせてくれた最たる要因はやはり、主人公の番場蛮が次々に編み出す魔球に在った。
唯、この作品に夢中になりながらも常に疑問に感じていたのは、「魔球をライバルに打たれたからといって、何故直ぐにその魔球を投じるのを止め、新しい魔球開発に走ってしまうのだろうか?」という点。
*****************************
① ハイジャンプ魔球
マウンド上で空高くジャンプし、そのトップからボールを投げ下ろす魔球。ジャンプして投げるという関係上、守備態勢に入るのが遅くなるという欠陥を見抜いたライバルの眉月光(アトムズ)が、バントでピッチャー前に球を転がしてヒットにすべく、何とかバットに球を当てる事には成功。完全に打ち崩したのは大砲万作(ドラゴンズ)で、人並み外れたパワーを元にバントの態勢から振り抜くという、”荒勢のガブリ寄り”の様な荒技。
② エビ投げハイジャンプ魔球
海老の様に身体を反らせてからハイジャンプ魔球を投じる事で球威を増させると共に、投じる際の手が見え難い事から打者の反応を遅らせるメリットを有する。番場がジャンプすると同時に自らも同じ高さ迄ジャンプして逸早く球筋を見切り、着地と同時に打ち放ったウルフ・チーフ(タイガース)。
③ 大回転魔球
マウンド上で投球モーションが見えない程の超高速回転をし、そこから直球を投げ込む魔球。「番場と同様に打席で超高速回転をしつつ打とうとしたウルフ・チーフ」、「ボールに対する反応力を高める特訓を積み、番場の回転を全く無視して、球筋を逸早く見切る事に注力した大砲万作」とライバル達が色々試みたが、実際に打ち崩したのは眉月光。その方法は裏に滑り止めの鋲が打たれていないツルツルのスパイクを履き、バッターボックスの一番前に立ち、バントの態勢で球をバットに当てる。恐るべき球威により身体共バッターボックスの後ろ迄持って行かれるが、その時点で球威はかなり減じられており、その状態からバットを振り抜いてホームランにするというもの。
④ 分身魔球
ボールを握り潰して投げる事で不規則な変化を起こさせ、投じた球が幾つにも分かれた様に見せる。分身魔球が横方向の一定軌道で在る事に着眼したウルフ・チーフが、短く持ったバットを魔球の変化軌道に合わせて振りながら、手を緩める事でバットの握り位置を調節して打ち込んだ。
⑤ 分身魔球(縦変化バージョン)
サイドスローから分身魔球を投じる事で、縦変化を生じさせたもの。ワールド・シリーズの為に来日したロジー・ジャックス(アスレチックス)が、バットを縦方向に振り抜く事で打ち崩した。
⑥ ミラクルボール(ハイジャンプ大回転分身魔球)
これ迄に開発した魔球を全て組み合わせた魔球。あらゆる方向に変化し、更に幾つも分身するというとんでもない代物で、結局は誰も打ち崩せなかった。(動画)
*****************************
アニメ版に登場した魔球だけを列挙してみた*2(漫画版には「ハイジャンプ大回転魔球」及び「ハラキリシュート」が存在。)が、これを見ても御判りの様に(ミラクルボール以外の)魔球は打ち崩されたといっても、常人では無いスーパー・ミラクルな選手によって打ち崩されただけの事で、他の選手達ならば先ず打ち崩す事は出来なかったと思うのだ。故にライバル達に魔球を打ち崩されて以降も、彼等達(ライバル達)は徹底的に敬遠するなりして勝負を避け、他の選手にはバンバン魔球を投げ続ける事で勝ちを収めるのは充分可能だったろう。「何故その道を番場は選ばなかったのか?」、「番場は諦めが良過ぎるのでは?」と思った訳だが、「魔球を次から次に開発しなければ、アニメ(漫画)の展開がつまらないからだろ。」といった”正答”はさて置き、そういったセコイ手は葉隠の世界観と相容れないという事なのだろう。
*1 「巨人の星」及び「侍ジャイアンツ」に登場するライバル達には、御互いに雰囲気が似た選手が居る。「花形満(タイガース)は眉月光」、「左門豊作(ホエールズ)は大砲万作」、「アームストロング・オズマ(ドラゴンズ)はウルフ・チーフ」といった感じ。ライバルと言ってしまうのは何だが、「飛雄馬の大親友にしてジャイアンツからドラゴンズに移籍した伴宙太は、番場の先輩にしてパートナーだった八幡太郎平(ジャイアンツ)」に”存在意義”が似ていると言えるだろう。
尚、漫画版「侍ジャイアンツ」は、優勝争いをしていたドラゴンズとの試合でライバルの大砲万作を打ち取った番場蛮が、全ての力を使い果たし、マウンド上に突っ立ったままで絶命するという強烈なエンディングだった。
*2 こちらのサイトを参考にさせて貰った。
ありえないような「魔球」。
1球投げるごとに寿命が縮まりそうです。
「巨人の星」と「野球狂の詩」はずっと読んでました。
前者は入門書として、後者はそのユルさと熱さのブレンド具合が好きでした。
「武士道」と聞くとなるほどと思います。
酔ってはいけないと思う反面、やっぱり日本人の良さを捨ててしまってもいけない。
松坂はジャイロボールをたとえ打たれても、投げ続けますよね
高校の頃、リアルタイムで 「巨人の星」 の連載を見ていました。野球マンガとしてはもっと前の 「ちかいの魔球」 とか 「黒い秘密兵器」 とかから読んでいた者ですが、やはり 「巨人の星」 は別格と言うか、女の子にも評判だったですよ。「あしたのジョー」 のジョーの方が女子には受けが良かったですがね。
何度も続編とか新編とかが出るというのはやはり時代を代表する名作と言うことでしょう。
昔の 「ちかいの魔球」 にも5つに見える分身の術の玉は有りましたが、侍ジャイアンツ や今の テニプリ まで来ると50女にはちょっとついていけないです
お久しぶりです。
ジャイアンツ好調っすね。
僕は巨人の星より侍ジャイアンツの方が好きでした。
昔っから、努力と根性は大嫌いだったんでw
アニメの方では番場蛮の死が変更されスポーツカーに
のって帰るというハッピーエンドに変わってましたよね。そこらへんもすっきりしていてよかったです。
まあ、あっさりしすぎたストーリー展開が55さんには諦めが良すぎると見えたかもしれませんが、いつもでも明るい展開がきたいできなかった巨人の星よりは
爽快感があったのを記憶しています。
その設定がまず巨人の星と真逆なのが興味深いですね。アンチテーゼから入っているところなどはなんとなく「裏切り者」であるデビルマンにも通ずるところがないでしょうか?これも時代の背景と空気を表している一つの表現なのでしょうか。。。
あと巨人の星にはなく侍ジャイアンツにあったのはヒロインですかね。
そのヒロイン、なんとなくルパンIII世の藤峰子とキャラがかぶるんですよ^^;
誤解させてしまう書き方になってしまって済みません。自分は「巨人の星」の世界観よりも「侍ジャイアンツ」のそれの方が断然好きなんです。で、「諦めが良過ぎる」としたのは、あくまでも”ズルイ自分としては「”超・超人的なライバル達に魔球を打ち崩されたからといって、他の選手達には未だ未だ通用するだろうし(恐らく一生打ち崩せないでしょうね(笑)。)、ライバル達は敬遠して他の選手達には魔球を投げ続ければ良いのに。」という小賢しい思いが在ったからです^^;。
「侍ジャイアンツ」はOP曲もED曲も大好きで、特に「鉄の左腕の折れる迄 熱い血潮の燃え尽きる迄♪」という例の曲は今でもカラオケで歌う程です。
「ハラキリシュート」・・・在りましたねえ。原作には登場したものの、何故かアニメでは描かれなかった。
衣笠選手に打たれた記憶は在ったものの、「彼だけに打たれたんだっけかなあ?」という思いも在ったので調べてみた所、此方(http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/1152/7080SG.html)に詳細が載っていました。
ハラキリシュートを打ち崩したのは、衣笠選手と明智学選手(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BE%8D%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%84#.E4.BB.96.E7.90.83.E5.9B.A3.E3.81.AE.E3.83.A9.E3.82.A4.E3.83.90.E3.83.AB.E3.81.9F.E3.81.A1)とのコンビによる二段打法。「一度バットの端にボールを当てて小フライにした後、もう一度バットを振る。」という“反則技”。記憶違いで無ければ、明智学選手は原作だけの登場でしたね。
今後とも、何卒宜しく御願い致します。