「sacrifice(サクリファイス)=犠牲」。女流ミステリー作家の近藤史恵さんの作品「サクリファイス」は、自転車ロードレースの世界を描いている。
個人競技というイメージが在る自転車ロードレースだが、この作品を読むと団体競技という色合いが強い事を痛感。「勝利を義務付けられた選手=エース」と「エースをサポートする選手=サポート」という役割が存在し、一人一人が勝利を目指して走るのでは無く、アシストはエースを勝利に導く為に走っていると言っても良い。サポートはエースの前を走って「風圧除け」となったり、猛ダッシュで他の選手達を引き付けてペース配分を狂わせたりと、エースの為に自分自身を「犠牲(サクリファイス)」にしているのだ。
****************************
高校時代に陸上選手として高い能力を発揮するも、勝利を目指すだけの日々に苦痛を感じていた白石誓。或る深夜、偶然点けたテレビで自転車ロードレースの“不可解なシーン”を目にした彼は、自転車ロードレース・ファンが集うインターネットの掲示板で、その疑問を呈する。寄せられた書き込みにより「不可解なシーンの真意」を知った彼は、自転車ロードレースの魅力を感じ、陸上で推薦が決まっていた大学を蹴って、自転車部の強い大学に進む。そして大学を卒業すると同時に、スカウトされて「チーム・オッジ」というチームに加入。
チーム・オッジのメンバーを見渡し、自分が絶対に敵わない選手が居る事を確認した白石は、エースでは無くサポートとして走る事に生き甲斐を感じる様になる。そして初めて抜擢された海外遠征で、彼は思いも寄らない悲劇に遭遇する。絶対的なエースの石尾豪が、レース中に転倒して即死したのだ。最初は単なる事故と思われていたのだが、やがて明らかになった真実は・・・。
****************************
「(サポートは)賞金こそ分配されるが、勝者として記録に残るのはたった一人、エースの名前だけだ。それが、他の団体競技と自転車ロードレースの違いで在る。」や「リーダージャージマジック。それは、それ迄ノーマークだった選手が、何かの番狂わせでリーダージャージ━総合一位の選手が着るジャージを身に着けると、それ迄の成績が嘘の様に強くなる事だ。」、「自転車競技には暗黙の了解の様な物が在り、総合を狙う選手が、ガツガツとステージ優勝迄も取りに行く事は、余り紳士的では無いとされている。」等、作者自身が自転車ロードレースのファンという事も在って、この世界に冠する知識が殆ど無い自分にとっては、興味深い内容が散見された。
常にエースの立場を最優先させるサポートが、或る時「自分自身の夢の実現」が目の前にちらついた事で心が揺れ動いて行く。微妙な人間関係が生み出す疑惑の念。ストーリーの展開方向が気になる作品だ。登場人物達の心理描写が、主役以外はやや薄く感じられるのは残念な所だが、青春ミステリーという括りで言えばなかなか読ませる内容。
総合評価は星3.5個。
個人競技というイメージが在る自転車ロードレースだが、この作品を読むと団体競技という色合いが強い事を痛感。「勝利を義務付けられた選手=エース」と「エースをサポートする選手=サポート」という役割が存在し、一人一人が勝利を目指して走るのでは無く、アシストはエースを勝利に導く為に走っていると言っても良い。サポートはエースの前を走って「風圧除け」となったり、猛ダッシュで他の選手達を引き付けてペース配分を狂わせたりと、エースの為に自分自身を「犠牲(サクリファイス)」にしているのだ。
****************************
高校時代に陸上選手として高い能力を発揮するも、勝利を目指すだけの日々に苦痛を感じていた白石誓。或る深夜、偶然点けたテレビで自転車ロードレースの“不可解なシーン”を目にした彼は、自転車ロードレース・ファンが集うインターネットの掲示板で、その疑問を呈する。寄せられた書き込みにより「不可解なシーンの真意」を知った彼は、自転車ロードレースの魅力を感じ、陸上で推薦が決まっていた大学を蹴って、自転車部の強い大学に進む。そして大学を卒業すると同時に、スカウトされて「チーム・オッジ」というチームに加入。
チーム・オッジのメンバーを見渡し、自分が絶対に敵わない選手が居る事を確認した白石は、エースでは無くサポートとして走る事に生き甲斐を感じる様になる。そして初めて抜擢された海外遠征で、彼は思いも寄らない悲劇に遭遇する。絶対的なエースの石尾豪が、レース中に転倒して即死したのだ。最初は単なる事故と思われていたのだが、やがて明らかになった真実は・・・。
****************************
「(サポートは)賞金こそ分配されるが、勝者として記録に残るのはたった一人、エースの名前だけだ。それが、他の団体競技と自転車ロードレースの違いで在る。」や「リーダージャージマジック。それは、それ迄ノーマークだった選手が、何かの番狂わせでリーダージャージ━総合一位の選手が着るジャージを身に着けると、それ迄の成績が嘘の様に強くなる事だ。」、「自転車競技には暗黙の了解の様な物が在り、総合を狙う選手が、ガツガツとステージ優勝迄も取りに行く事は、余り紳士的では無いとされている。」等、作者自身が自転車ロードレースのファンという事も在って、この世界に冠する知識が殆ど無い自分にとっては、興味深い内容が散見された。
常にエースの立場を最優先させるサポートが、或る時「自分自身の夢の実現」が目の前にちらついた事で心が揺れ動いて行く。微妙な人間関係が生み出す疑惑の念。ストーリーの展開方向が気になる作品だ。登場人物達の心理描写が、主役以外はやや薄く感じられるのは残念な所だが、青春ミステリーという括りで言えばなかなか読ませる内容。
総合評価は星3.5個。
いわゆるツールドフランスなども同じ範疇にはいるんでしょうね。となるとサポートとエースももちろんいるんだなぁ。チラチラと見るぐらいだったので今まで知らなかったです。勉強になりました
自転車ロードレースに関する知識が皆無に等しかったので、読んで色々知識が得られる作品でした。こちらのサイト(http://www.cyclestyle.net/tourdefrance2007/about.html)を拝見すると、ツール・ド・フランスでも「エース」と「サポート」という役割がしっかり在り、「個人競技」と言うよりもチームとして戦略的に競う「団体競技」の色合いが強いんですね。
で、団体競技であるスポーツに『一匹狼』っぽい選手がいたりするんですから世の中面白いものです。