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ロシア沿海州に開拓農民として入植した小條(こじょう)夫妻の次男・登志矢(としや)は、鉄道工科学校で学び、念願の鉄道技能士となった。だが、世界大戦の最中、帝国軍に徴兵されて前線へ送られ、激戦を生き延びる。
そして復員すると、帝国には革命の嵐が吹き荒れ、軈て登志矢も否応無しに飲み込まれて行き・・・。
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佐々木譲氏の小説「帝国の弔砲」を読了。読み始めて直ぐに、「?」と頭の中が混乱した。「登志矢の左手にかかる勝鬨橋は、一年前に完成したばかりだ。去年開催された東京オリンピックと万国博覧会に合わせ、都心と万博会場の晴海を結ぶために造られたのだ。」という記述が在ったから。勝鬨橋が完成したのは「1940年」の事。「勝鬨橋が完成したのが1年前。」で在り、「“去年”開催された東京オリンピックと万国博覧会。」という事になると、共に1940年の出来事という事になる。「勝鬨橋の下をタグボートが通り抜け様としており、タグボートに曳かれている艀には戦車の車体が載っている。」という設定が在る事からも、時代は第二次世界大戦中で在る事が判る。
でも、今迄に“開催された”東京オリンピックというのは「1964年東京オリンピック」しか存在せず、「1940年東京オリンピック」は日中戦争の影響で開催されていないのだ。又、1940年に開催予定だった「紀元2600年記念日本万国博覧会」も、同じ理由から開催されていない。更に読み進めて行くと、「“露日”戦争で、日本は“負けた”。」事になっている。其の段階で漸く判った。「佐々木氏の作品『抵抗都市』と同様、“現実”とは異なる“パラレル・ワールド”を描いているのだ。」と。
「ロシア革命」等、現実の世界で起こった出来事が幾つも盛り込まれているが、現実とは異なる結末になっていたりして、混乱してしまう。「ロシア人の“正式な名前”と“愛称”の表記が、日本人の感覚からすると乖離している様に感じられる。」のに加え、時代が一気に飛んだりする設定も、混乱に拍車を掛ける。抑、敢えてパラレル・ワールドの設定迄して、佐々木氏が何を訴えたかったのか、自分には良く判らなかった。
総合評価は、星3つとする。