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「敵は直ぐ近くに居て、笑顔で仲間を装っているのだ。内心では御互いの事を、『相手許りが制度に守られ、恵まれたポジションで、有利に暮らしている。』と憎み合っている。」。
ネット上で激化する、男女の啀み合い。女性嫌悪(ミソジニー)の果てに生まれた"硫酸男"の正体とは?
バッテリー盗難ビジネスに巻き込まれた高校生(「西池袋バッテリーブギ」)、愛国ブログに潜む闇(「目白フェイクニュース・ライター」)、真面目な会社員女性が嵌ったメンズコンカフェの罠(「乙女ロード文豪倶楽部」)、そしてミソジニーとミサンドリー(男性嫌悪)が強烈にぶつかり合う世の中(「男女最終戦争」)。今正に起こっている事、明日起こるかも知れない事件を、刺激的に描いた短編小説4編。
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今回読んだ小説「男女最終戦争 池袋ウエストゲートパークXX」(著者:石田衣良氏)は、「池袋西口公園近くの果物屋の息子・真島誠(まじま まこと)が、"池袋のトラブルシューター"として、池袋を勢力下に置くカラー・ギャング集団「Gボーイズ」のリーダーにして、マコトと工業高校時代の同級生だった安藤崇(あんどう たかし)と共に、依頼された難事件を次々と解決し、住民の幸福と秩序の維持を目指す。 」という「『池袋ウエストゲートパーク』シリーズ」の第20弾に当たる。
セックスを執拗に描写するタイプの石田作品は最早読む気が起きないが、「『池袋ウエストゲートパーク』シリーズ」は大好き。「個性的なキャラクターの持ち主が登場するのも然る事乍ら、「『日本の社会の闇、又、其の闇の中で藻掻き続けている弱者に光を当て、エッジの利いた表現力で描写している。』のが実に心地好い。」からだ。
「『池袋ウエストゲートパーク』シリーズ」の第1弾が上梓されたのは1998年と、もう26年も前の事。現在64歳と成った石田氏が38歳の時(作品執筆時は37歳)だが、「未だにエッジの利いた、若さ迸る文章で紡がれた内容。」なのは驚異的。「同シリーズが、累計で470万部を突破した。」というのも、其れだけ多くのファンに支持され続けて来たからだろう。
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・電気自動車に電気自転車、スマートフォンにノートパソコン、ゲーム機や腕時計や携帯型音楽プレイヤー、気がついてみればおれたちの周りはバッテリーだらけ。いくらカーボンニュートラルとはいえ、こんなにすべて電気にかけて、ほんとにだいじょうぶなんだろうか。スマホのバッテリーの寿命はせいぜい二年。テスラやBYDがいくら先進的でも、クルマのバッテリーだって五年もすればおしまいだ。 スマホはさして進化しない新機種に無理やり買い替えさせられるし、電気自動車はバッテリー交換に元の車両価格の半分、二百万円もかかるという。なんというか、おれたちみんな半分はバッテリーのために働いているようなもんだよな。 しかも、最近の高性能バッテリーには、扱いが面倒なレアメタルがどっさり入っている。リチウムとかニッケルとかコバルトとかね。今のところ、処分や再生の方法も決まっていないし、使用済みのバッテリーはただ保管しているだけ。中身が漏れだすと環境汚染になるので、うかつに手がだせないのだ。地球温暖化対策のために、バッテリーを果てしなく増産していく今のやりかたは持続可能なのか(ちなみにバッテリー製造には膨大な量の電気が使用される。その電気はどの先進国でも半分以上は盛大に化石燃料を燃やしてつくられている。)。 (「西池袋バッテリーブギ」より)
・誰も彼もが敵をつくって、顔の見えない誰かを攻撃する「憎悪」の時代になったよな。若者VS老人、男VS女、右VS左、ときにはイヌVSネコとか、欧風カレーVSスパイスカレーなんて調子でね。 (「目白フェイクニュース・ライター」より)
・オタクって、すっかり誉め言葉になったよな。昔は最低のネガティブワードだったが、時代は様変わりした。アニメでも、アイドルでも、韓流ドラマでもいい。なにかの趣味を熱烈に楽しんで、自分なりの推しをもつことが、現代ではステータスになったのだ。よいセンスと時代へのアップデイトの証明である。もちろん、推すのは誰もが知っている人気ジャンルでなくともいい。 (「乙女ロード文豪倶楽部」より)
・「サンキュー。この仕事していて思ったんだが、今のニッポンじゃ男と女の距離はどんどん離れているんだな。なぜかおたがいを毛嫌いしている。経済的な格差よりも男女の格差のほうが激しいかもな。確かに二百年か三百年後、日本人がひとりもいなくなるって、ほんとうかもしれない。」。 (「男女最終戦争」より)
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「社会問題化している(して来ている)事柄を、上手く作品内に取り入れる感性の鋭さ。」は相変わらず。「乙女ロード文豪倶楽部」に登場するメンズコンカフェには「こんな物迄出て来ているんだ・・・。」と"勉強"に成った。
個人的に一番好きだったのは「西池袋バッテリーブギ」で、「工業高校時代のマコトとタカシ、そして恩師との話。」のが興味深かったし、恩師とマコト達との"変わらぬ関係性"が垣間見えて、ほんわかとした気分に成ったので。
逆に、一番ピンと来なかったのは「目白フェイクニュース・ライター」で、「色んな意味で納得出来ない部分が在ったから。」というのが理由。「現実社会では、納得出来ない結末が殆ど。」なのは判っているけれど、せめて物語の世界ではスッキリした気分にさせて欲しい。
総合評価は、星3.5個とする。