5年前の記事「意味不明で不気味な手紙」で、「1991年に発生した或る幼女の失踪事件と、其れから3年後に幼女宅に送り付けられた怪文書。」を紹介した。怪文書は「カアイソウ」等、意味不明且つ不気味さを感じさせる内容で、何度読んでもゾッとしてしまう。
1999年、京都で発生した「京都小学生殺害事件」では、犯行現場に犯行声明と思われる手書き文書のコピー6枚が残されていた。文書には「自身が小学校を攻撃する事や小学校に恨みが在る事、そして『自分を捜すな。』いう要求。」が記された上で、署名の様に「私を識別する記号 てるくはのる」と結ばれていた。「カアイソウ」と同じく、其の意味不明さにゾッとしてしまった自分。
「『てるくはのる』とは、一体何を意味しているのか?」と、当時はマスメディアを中心に“プロファイリング合戦”の様相を呈したが、事件発生から約2ヶ月後、犯人と目された21歳の男性(警察署への任意同行を求めた際に逃走し、マンション屋上から飛び降りて死亡。)宅を家宅捜索した所、「名言名句416ページ」と書かれたメモを発見。本棚に置かれた名言集の416ページには「か行」の索引が在り、其の文言の末尾1文字を拾い繋ぐと「てるくはのる」となった。其の為、警察は「『てるくはのる』自体に、特に深い意味は無し。」と断定された。
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野原実は、息子・輝久の部屋に入り、机上に置かれた1冊の本を手に取った。「てるくはのる」。其のカヴァーを取ると、出て来たのは真っ白な本。其の中に書かれていたのは、輝久が綴った、“帝王”による激しい虐めの記録だった。息子を狂気から守る為、実は己の全てを懸けて直走るが・・・。
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「叙述トリックを駆使したミステリー」を得意とする折原一氏。「松山ホステス殺害事件」をモデルにした「逃亡者」、「東電OL殺人事件」をモデルにした「追悼者」等々、実在の事件をモデルにした小説を過去に幾つか著しているが、今回読了した「帝王、死すべし」は「京都小学生殺害事件」をモデルとした小説。
実在の事件をモデルとしているだけに、どうしても其れとストーリーを重ね合わせてしまう。叙述トリックの醍醐味で在る「此の話し手(書き手)は、一体誰なのだろうか?」を推理し、正体や人間関係が明らかとなった際には、「そういう事だったのか!」という驚きに浸る。制約が非常に多いと思われる叙述トリックを、自家薬籠中の物としている折原氏に脱帽。
唯、面白い内容では在ったものの、“真犯人”が判った時の衝撃度という点ではやや物足りなかった。想定内の結果だったので。
総合評価は星3つとする。