ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「雪割草」

2018年10月29日 | 書籍関連

「亡き有名作家の未発表作品、又は未刊行作品が見付かった。」、そんな報道が時折される。そういう報道がされると、特に思い入れが無い作家の場合でも興味を惹かれる。思い入れが強い作家ならば一層だ。

 

金田一耕助シリーズ」で有名な作家・横溝正史氏。鬼籍に入られて37年目となる今年、彼の未刊行作品が刊行された。其れが、今回読了した「雪割草」。

 

「横溝正史氏の作品に、埋もれた長編小説が在る。」事を知り、二松學舍大学文学部山口直孝教授其の作品を捜し続けていた。二松學舍大学所蔵の資料の中に「雪割草」なるタイトルの草稿11枚が存在していたが、何に掲載されていたのかも含め、謎多き作品だったが、苦心惨憺の結果、1941年6月12日~12月29日新潟毎日新聞」、「新潟日日新聞」に連載された物と判明。199回分全ての内容が手に入り(隣接している記事が切り取られている影響で、最終回に関しては冒頭から28行分の上部数文字が欠落していたが。)、初刊行の運びとなった。

 

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舞台は、信州諏訪。地元の実力者・緒方順造(おがた じゅんぞう)の一人娘・有爲子(ういこ)は、旅館「鶴屋」の一人息子・宮坂雄司(みやさか ゆうじ)との婚約を突然取り消されてしまう。其れは、有爲子が順造の実の娘では無い事が問題とされたで在った。順造は、婚約破棄の怒りから脳出血に倒れ、其の儘還らぬ人となる。出生の秘密を知らされた驚きと順造を喪った悲しみとで呆然とする有爲子で在ったが、順造の遺した手紙を頼りに、順造の友人・賀川俊六(かがわ しゅんろく)を尋ねて上京する。

 

東京行きの汽車の中で有爲子は偶然、五味美奈子(ごみ みなこ)の率いるスキー帰りの一行遭遇し、其の中の1人、賀川俊六の息子・仁吾(じんご)の姿を印象に留める。仁吾は、日本画家大家・五味楓香(ごみ ふうこう)の弟子で、将来が有望視されている若手で在る。

 

上京した有爲子は、賀川俊六が既に亡くなっているのを知り、落胆する。順造の知人・恩田勝五郎(おんだ かつごろう)夫婦を頼った有爲子は、順造が遺した財産に目を付けられ、雄司と無理矢理引き合わせられそうになる。を逃れ様として路上に飛び出した有爲子は、自動車に撥ねられ、病院に運ばれる。軈て意識を回復した有爲子の前にたのは、彼の仁吾で在った・・・。

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「雪割草」が連載されていたのは、太平洋戦争勃発した年。戦争の影を感じさせる記述は在るものの、此の時代に在り勝ちな“戦争賛美の作品”では無い。

 

登場人物の1人・賀川仁吾の風体背格好の違いは在るものの、横溝氏が後に創作した金田一耕助(1946年に発表された「本陣殺人事件」にて、初登場。)とそっくりなのが非常に興味深い。

 

でも、「雪割草」は推理小説では無く、恋愛小説の部類に入る。1952年~1954年に放送された有名なラジオ・ドラマ君の名は」の“男女の擦れ違い”に、1970年代に人気を博しTVドラマ赤いシリーズ」で良く使われた“生みの親と育ての親”という題材を組み合わせた様な内容。金田一耕助シリーズの様な“おどろおどろしい推理小説”を期待していたので、がっかりしたのは事実だ。

 

とは言え、読ませる内容では在る。「君の名は」や「赤いシリーズ」以前、其れも戦争の足音が近付いている中で、こういう小説を書いた横溝氏に、改めて凄い才能を感じる。

 

総合評価は、星3.5個とする。


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