**********************************************************
名も無き町。殆どの人が訪れた事も無く、訪れ様ともしない町。けれど、此の町は寂れてはいても観光地で、再び客を呼ぶ為の華々しい計画が進行中だった。多くの住民の期待を集めていた計画は然し、世界中を襲ったコロナウイルスの蔓延により頓挫。町は望みを絶たれてしまう。
そんなタイミングで、殺人事件が発生。犯人は勿論、犯行の流れも謎だらけ。当然だが、警察は、被害者遺族にも関係者にも捜査過程を教えてくれない。一体、何が起こったのか?
「俺は自分の手で、警察より先に真相を突き止めたいと思っている。」。颯爽と現れた“黒い魔術師”が、人を喰った様な知恵と仕掛けを駆使して、犯人と警察に挑む。
**********************************************************
東野圭吾氏の「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」は、昨年11月に上梓された小説。東野氏は一番好きな小説家で、全作品を読んで来ているが、記憶違いで無ければ「新型コロナウイルス感染症に付いて、初めて触れた作品。」だと思う。新型コロナウイルス感染症の大流行により、我々のライフスタイルは大きく変わった。新型コロナウイルス感染症の流行前には考えられなかった様なスタイルになった物も少なく無く、新型コロナウイルス感染症が終息したとしても、完全に元のスタイルに戻れるのかどうかは判らない。例えば30年後に此の作品を読んだ“若い読者”が、「こんなスタイルも在ったんだ。」と驚くのか、それとも「今のスタイルは、此の時代から定着して行ったのか。」と思うのか、興味深い所で在る。
「30歳の神尾真世(かみお まよ)は結婚を目前にして、元中学校教師の父・英一(えいいち)を失う。警察の調べによると、他殺の可能性が高いと言う。生徒達から慕われていた父は、何故殺されたのか?当惑する彼女の前に、叔父(英一の弟)・武史(たけし)が現れ、犯人を捕まえる事を宣言する。」というストーリー。
武史は世界的なマジシャン。優秀なマジシャンはミスディレクションやマジシャンズ・セレクト等の“心理戦”を十八番とするが、彼も例外では無く、巧みな心理戦によって、次々と新たな情報や事実を掴んで行く。“名探偵”で在るのは確かなのだが、一方で相手の気持ちを考えない言動をする等、エキセントリックな面も持ち合わせている。そんな叔父に翻弄され乍らも、真世は父を殺害した人物に迫って行く。
真世が“或る人物”に対して“或る質問”を何度も繰り返していた理由や、「彼女の幼い頃の記憶に強く残っていた人物が誰なのか?」等、後々になって「伏線が、上手く回収されているな。」と思わせるのは、東野氏ならでは。
だが、武史が繰り出して行く心理戦に「成る程。」と感心させられはするものの、如何せん余りのエキセントリックさが鼻に付くし、「無関係そうな〇〇に付いて、何故、何度も取り上げられるのだろう?」という点に着目すれば、“犯人及び殺害動機当て”は、そう難しく無いと思う。東野作品に惚れ込んでいる身からすると、読後に“何とも言えない余韻”が残らないのも不満。
総合評価は、星3.5個としたい。