ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「歌われなかった海賊へ」

2024年02月13日 | 書籍関連

第11回(2021年)アガサ・クリスティー賞の大賞及び第19回(2022年)本屋大賞、そして第9回(2022年)高校生直木賞を受賞し、受賞は逃したものの第166回(2021年下半期直木賞の候補作に選ばれた小説同志少女よ、敵を撃て」(著者逢坂冬馬氏)。逢坂氏にとって文壇デビュー作となった此の作品は、「独ソ戦が激化する1942年、ドイツ軍と戦う赤軍の女性狙撃兵を描いた。」物だったが、骨太な内容も然る事乍ら、時代背景や銃撃シーンの描き方、ストーリー展開、登場人物達のキャラ立ち等、とても新人作家とは思えない素晴らしさ。が在り、自分は総合評価を「星4つ」とした。

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1944年、ヒトラーによるナチ体制ドイツ密告により父を処刑され、居場所を無くしていた少年ヴェルナー・シュトックハウゼンは、「エーデルヴァイス海賊団」を名乗るエルフリーデ・ローテンベルガーとレオンハルト・メルダースに出会う。彼等は、愛国心煽り、自由を奪う体制に反抗し、ヒトラー・ユーゲント度々戦いを挑んでいた少年少女だった。ヴェルナー等は軈て、市内に敷設されたレールに不審抱き、線路を辿る其の果てで“究極の悪”を目撃した彼等の取った行動とは?
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今回読んだ「歌われなかった海賊へ」は、逢坂氏にとって2作目の小説で、時代としては「同志少女よ、敵を撃て」と同じ第二次世界大戦下を描くも、舞台はナチスが支配するドイツ。表紙に描かれたイラストは、「同志少女よ、敵を撃て」と同じ雪下まゆさんが手掛けているが、見る者の心に何とも言えない不安感を与える絵柄が実に印象的で、「戦争」という物の恐ろしさを感じさせる。

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そうやって、自分が見た他人の断片をかき集めて、あれこれ理由をつけて、矛盾のない人物像ができあがると錯覚して、思い上がって、分かろうとして、理解したつもりになる。そうすればあとは簡単だ。人を集めて、種類に分けて整理して、一つの区画、一つの牢屋に追い込んで、服に貼った標識を見て安心するんだ。私はそんなに傲慢じゃない。そうだ、私はそんなに傲慢じゃないし・・・。

・ヴェルナーは考えた。なぜ、人が収容され死んでゆくことに対して、普通の市民が冷淡になれるのだろうか。彼ら市民が「国民社会」の内側にいるからか。そしてその外側にいる存在は、思いやりや同情の対象ではない、という価値観公認されているからか。―収容され、死んでゆく者たちは自分たちとは違う―与えられるその基準を疑いもせず、進んで同化することによって「国民社会」の内側に留まれば、権力自ら弾圧することはない。
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終戦を迎えた時に“少年・少女”だった日本の人達の証言を見聞すると、当時の大人達への不信感というのが彼等の中に多く占められている事が判る。「戦中は『鬼畜米英!』だ何だと、敵蛇蝎如く忌み嫌い、“個人主義”を一切認めなかったのに、終戦を迎えた途端手の平を返し敵国の人間を大歓迎して迎えたり、『民主主義万歳!』と平然と叫ぶ大人達を見て、自分は大人が信じられなくなった。」という感じ。戦中に多数を“抑圧”していた大人程、“姿”をガラッと変えたのだから、少年・少女の不信感が高まるのも当然だろう。

「歌われなかった海賊へ」にも、そういう大人達が多数登場する。、“多数”どころでは無く、“殆ど”と言って良いだろう。中には「優しい。」と見做されている“普通の大人達”も存在しているのだが、彼等は“非人道的な行為”が行われている事を(薄らとも含め)知っているのに、「知らない。」とか「見ていない。」と“意識的に思い込もうとしている”のだ。戦中の日本でも、同様な感じだったのだろう。

アドルフ・ヒトラーもそうだが、恐ろしい独裁者達は皆、或る日急に現れた訳でも、又、或る日急に権力を握った訳でも無い。彼等を支持する人が徐々に増えて行き、気付いた時には“圧倒的多数”となっていたからこそ、恐ろしい独裁者は生まれたのだ。「自分自身が多角的に深く考える事無く、表層的な部分のみを見て支持した人間が独裁者となった。」というのに、其の独裁者の行為によって自身も不利益被ると、「自分は、騙された被害者に過ぎないのだ。」と叫ぶ人が、何と少なく無かった事か。「『騙されていた。』と言って、平気で居られる国民なら、恐らく今後も、何度でも騙されるだろう。」と
映画監督伊丹万作氏は語ったそうだが、其の通りだと思う。

「戦争に関わっているのは“悪なる人”だけで無く、寧ろ“普段は普通の人”というのが殆ど。」というのを痛感させられる作品。後味”は決して良く無いが、「同志少女よ、敵を撃て」と同様、“読ませる内容”だ。(恥ずかしい話だが、「エーデルヴァイス海賊団」なる組織が実在していたのを今回初めて知り、勉強になった。)

総合評価は、星4つとする。


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