ミステリーを対象にした文学賞は幾つか在るが、受賞者の中から超メジャーな作家が誕生するケースとなると、中々無い物だ。押しも押されもせぬ超メジャー作家となった海堂尊氏。彼を生み出した「『このミステリーがすごい!』大賞」なんぞは、珍しい成功例と言える。
「横溝正史ミステリ大賞」の場合、横溝正史氏という超メジャーな作家名が冠された文学賞にも拘らず、此れ迄に受賞して来た作家達の顔触れを見ると、申し訳無いけれど「其の後に作家として大成した。」という人が見当たらない。
今回読了した小説「消失グラデーション」(著者:長沢樹氏)は、「2012年版このミステリーがすごい!(国内編)」で6位、「2012本格ミステリ・ベスト10(国内編)」でも6位と、昨年のミステリー・ランキングでは高評価を得た作品。又、第31回(2011年)「横溝正史ミステリ大賞」を受賞した作品でも在り、本の袖には綾辻行人氏、北村薫氏、そして馳星周氏といったミステリー界の大御所達(何れも「横溝正史ミステリ大賞」の選考委員。)が此の作品を大絶賛するコメントを寄せているのだから、内容を期待しない訳にはいかなかった。
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私立「藤野学院高校」で男子バスケットボール部に所属する椎名康は、或る日、同級生で女子バスケットボール部のエースで在る網川緑が、校舎の屋上から転落する場面に遭遇する。康は血を流して地面に横たわる緑を助け様とするが、何者かに首を締め上げられ、意識を失ってしまう。そして病院で意識を取り戻した康は、緑が行方不明になっている事を知らされるのだった。
監視された空間で起こった、目撃者不在の“少女消失”事件。複雑に絡み合う謎に、多感な若き探偵達が挑み、其の結果見えて来た真相とは?
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登場人物達のキャラクター設定に“深み”を感じられないせいか、彼等の人間関係を掴み辛い嫌いが。なので、何度か「主な登場人物」という表を確認したり、途中で読むのを止めたりした為、読書スピードが速い自分にしては読了迄時間を要した。
「読者の『思い込み』を利用し、『意外な事実』で唖然とさせる。」というのも、ミステリーの良く在る手法。此の作品を読んでいてずっと違和感を感じ続けていたのだけれど、「其の違和感が、何から来る物なのか?」が判らなかった。しかし“種明かし”がされた段階で、其の違和感の理由が判明。完全な「思い込み」が在ったのだ。「嗚呼、そういう事だったのか。」という意外性は、多くの読者が感じる事だろう。
しかし、全体的に「御都合主義」な設定が多過ぎる。小説なのだから或る程度の御都合主義的設定は否定しないけれど、「こんな事は、流石に不自然だろ。」と多くの読者が思ってしまうで在ろう設定が幾つも使われてしまうと、ハッキリ言って興醒め。
先日読了した小説「震える牛」では、帯に記された「平成版『砂の器』誕生!」という惹句に関して、「『看板に偽り在り。』と迄は言わないが、『誇大宣伝』で在るとは思う。」と自分は書いた。今回の「消失グラデーション」に関しては、「大御所達の大絶賛に異議在り!」と言いたいし、「昨年のミステリー・ランキングで、何故あんなにも高評価を得たのだろう?」という疑問が残った。
「『横溝正史ミステリ大賞』の受賞者は大成せず。」のジンクスは、今後も続いてしまうのだろうか。そんなガッカリ感が在り、総合評価は星2.5個とする。