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シャトゥーン: 冬籠りに失敗し、食料を求めて雪中を徘徊するヒグマの事。「穴持たず」とも呼ばれる。雪の降り積もった山中で食料を見つけ出すのは困難な為、家畜や人間を襲う等、非常に凶暴な状態に在る。
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子供の頃、「シートン動物記」が好きで何度も読み返した。特に好きだったのは「狼王ロボ」だったが、この作品で様々な動物の生態を知る事に。そして学生の頃は西村寿行氏の作品等、動物に関する小説をちょこちょこ読んだが、此処暫くは読んでいなかった。「シャトゥーン ヒグマの森」(著者: 増田俊也[俊成]氏)は自分にとって、久方振りに読む動物小説となる。
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北海道の北端に大樹海が広がっている。神奈川県の広さに匹敵する広大な森だ。平均気温は北極圏より低く、冬にはマイナス40度を下回る日も珍しくない。そんな土地の研究林を管理する鳥類学者の元で年末年始を過ごそうと、彼の親族や学者仲間達が集まっていた。其処へ、ヒグマに襲われたという密猟者が逃げ込んで来る。車が横転してしまい動かず、電話も通じない。小屋に集った人々は完全に孤立してしまったのだった。
やがて、体重350kgを超す巨大なヒグマが小屋を襲う。秋に食い溜めに失敗して冬眠出来ず、雪の中を徘徊するシャトゥーン(穴持たず)と呼ばれる危険なヒグマだった。密猟者の銃程度ではヒグマの動きを止める事は出来ない。ヒグマによって少しずつ破壊されて行く小屋。そして、人食いヒグマへの恐れが、人々から冷静さを奪い去ろうとしていた・・・。
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第5回「このミステリーがすごい!」大賞(2006年)の優秀賞に輝いた作品(受賞時のタイトルは「シャトゥーン」。)で、実は読者投票(一次選考を通過した10作品の梗概と冒頭部分がネット上に公開され、それを読んだ人が自分の好きな作品を選ぶ方法。)ではこの回に大賞に輝いた「ブレイクスルー・トライアル(受賞時のタイトルは「トライアル&エラー」。)を抑えて1位に輝き、WEB読者賞を受賞してるとか。
「現存する動物の中で最強なのは何か?」というのは、昔から良く議論される話題。アフリカゾウやシロサイ、ヒグマ、ライオンと様々な動物名が挙がるが、少なくとも「ヒグマvs.ライオン」で言えば、ヒグマの圧勝という事になる様で在る。
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「ヒグマは動物の中で最も静かに動くことができるって言われてる。ブッシュの中でも一切音をたてないで移動できるらしいわ。」
「どうやってですか。」
「体中の毛をふわっと柔らかく立てて。」
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「海岸でアザラシやイルカの死体が打ち上げられると、その腐臭を何十キロも先から嗅いでヒグマがやってくるらしいわ。とにかく嗅覚は動物の中でも抜群らしいのよ。二メートル下に埋めても捜し出すそうよ。開拓時代には、土葬された人間の墓を三十体も掘り返して、どろどろに腐った人肉を貪り食べたっていう記録も残ってる。」
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北海道のヒグマと本州以南のツキノワグマ。日本に生息するこの二種類のクマを、たいていの人は峻別することができない。訳知りの人はツキノワグマの首の下にある月の輪のあるなしで二種を見分けられると言うだろう。しかし、実際にはこの月の輪はヒグマにもよく見られる模様だ。ヒグマは紋様だけではなく毛色自体のバリエーションが多く、黒色、灰白色(いわゆる銀毛)、褐色(いわゆる金毛)などさまざまである。
ではヒグマとツキノワグマの最大の違いは何かというと、それは圧倒的な体格差である。
ツキノワグマ 最大60~70キロ
エゾヒグマ 最大400~450キロ
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「止め足だな。」。昭がつぶやいた。この“止め足”は薫も知っている。ヒグマが使う高等戦術だ。猟師にしつこく追われている時、足跡の上を正確に踏んで後ろへ歩き、横へ飛んでブッシュの中に隠れる。猟師が足跡を追ってきてそこを通過した瞬間、後ろから攻撃するのだ。獣とは思えぬほど狡猾である。
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「猟師たちはヒグマは時速80キロで走るって言うわ。時速70キロのトラックにヒグマが悠々と併走してきたっていう話も聞いたことがある。トルクがあるから雪の上でもスピードが落ちない。100メートルを6秒台から7秒台で走るのよ。300キロも400キロもある体で。人間の世界記録は10秒を少し切るくらいでしょう。つまり世界一速い人間より平均的なヒグマのほうが断然速いってこと。見た目は鈍そうだけど人間の脚では絶対に逃げられない。」
(中略)
「それに木登りも巧いの。秋になると、大木に登って木の実やヤマブドウを食べてる。よほど大きな雄の成獣以外はするすると登るわ。」
(中略)
「泳ぐ力も人間より上。夏になると湖や海で泳いで遊んでる。天塩の海岸から利尻島まで20キロを泳いで渡ったという記録もある。」
(中略)
「昔、苫小牧の道路でマイクロバスと衝突して下敷きになったヒグマが、それを持ち上げて脱出したっていう有名な話がある。マイクロバスは4トン近い重さがあるし、人間が乗ってるんだから5トンを超えていただろう。俺は人間の中ではかなり力があるほうだが、それでもベンチプレスで150キロだ。ヒグマは5トンだ。5000キロだ。それを持ち上げるんだ。この差が人間とヒグマの絶望的な能力差だ。」
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この他にも、1615年に北海道で発生した「三毛別羆事件」等の例を挙げて、ヒグマの執拗性や恐ろしさが記されている。昔、巨大なハイイログマの恐怖を描いた「グリズリー」という映画が在ったが、とても怖かったのを覚えている。この作品でもヒグマに襲われる人々の姿が詳細に描かれているが、スプラッター映画が苦手な方は読む気が失せるかもしれない。それ程に怖い。
ミステリーとしてはイマイチだが、ストーリーはなかなか面白いし、何よりもヒグマの生態が興味深い。総合評価は星3.5個。
シャトゥーン: 冬籠りに失敗し、食料を求めて雪中を徘徊するヒグマの事。「穴持たず」とも呼ばれる。雪の降り積もった山中で食料を見つけ出すのは困難な為、家畜や人間を襲う等、非常に凶暴な状態に在る。
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子供の頃、「シートン動物記」が好きで何度も読み返した。特に好きだったのは「狼王ロボ」だったが、この作品で様々な動物の生態を知る事に。そして学生の頃は西村寿行氏の作品等、動物に関する小説をちょこちょこ読んだが、此処暫くは読んでいなかった。「シャトゥーン ヒグマの森」(著者: 増田俊也[俊成]氏)は自分にとって、久方振りに読む動物小説となる。
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北海道の北端に大樹海が広がっている。神奈川県の広さに匹敵する広大な森だ。平均気温は北極圏より低く、冬にはマイナス40度を下回る日も珍しくない。そんな土地の研究林を管理する鳥類学者の元で年末年始を過ごそうと、彼の親族や学者仲間達が集まっていた。其処へ、ヒグマに襲われたという密猟者が逃げ込んで来る。車が横転してしまい動かず、電話も通じない。小屋に集った人々は完全に孤立してしまったのだった。
やがて、体重350kgを超す巨大なヒグマが小屋を襲う。秋に食い溜めに失敗して冬眠出来ず、雪の中を徘徊するシャトゥーン(穴持たず)と呼ばれる危険なヒグマだった。密猟者の銃程度ではヒグマの動きを止める事は出来ない。ヒグマによって少しずつ破壊されて行く小屋。そして、人食いヒグマへの恐れが、人々から冷静さを奪い去ろうとしていた・・・。
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第5回「このミステリーがすごい!」大賞(2006年)の優秀賞に輝いた作品(受賞時のタイトルは「シャトゥーン」。)で、実は読者投票(一次選考を通過した10作品の梗概と冒頭部分がネット上に公開され、それを読んだ人が自分の好きな作品を選ぶ方法。)ではこの回に大賞に輝いた「ブレイクスルー・トライアル(受賞時のタイトルは「トライアル&エラー」。)を抑えて1位に輝き、WEB読者賞を受賞してるとか。
「現存する動物の中で最強なのは何か?」というのは、昔から良く議論される話題。アフリカゾウやシロサイ、ヒグマ、ライオンと様々な動物名が挙がるが、少なくとも「ヒグマvs.ライオン」で言えば、ヒグマの圧勝という事になる様で在る。
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「ヒグマは動物の中で最も静かに動くことができるって言われてる。ブッシュの中でも一切音をたてないで移動できるらしいわ。」
「どうやってですか。」
「体中の毛をふわっと柔らかく立てて。」
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「海岸でアザラシやイルカの死体が打ち上げられると、その腐臭を何十キロも先から嗅いでヒグマがやってくるらしいわ。とにかく嗅覚は動物の中でも抜群らしいのよ。二メートル下に埋めても捜し出すそうよ。開拓時代には、土葬された人間の墓を三十体も掘り返して、どろどろに腐った人肉を貪り食べたっていう記録も残ってる。」
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北海道のヒグマと本州以南のツキノワグマ。日本に生息するこの二種類のクマを、たいていの人は峻別することができない。訳知りの人はツキノワグマの首の下にある月の輪のあるなしで二種を見分けられると言うだろう。しかし、実際にはこの月の輪はヒグマにもよく見られる模様だ。ヒグマは紋様だけではなく毛色自体のバリエーションが多く、黒色、灰白色(いわゆる銀毛)、褐色(いわゆる金毛)などさまざまである。
ではヒグマとツキノワグマの最大の違いは何かというと、それは圧倒的な体格差である。
ツキノワグマ 最大60~70キロ
エゾヒグマ 最大400~450キロ
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「止め足だな。」。昭がつぶやいた。この“止め足”は薫も知っている。ヒグマが使う高等戦術だ。猟師にしつこく追われている時、足跡の上を正確に踏んで後ろへ歩き、横へ飛んでブッシュの中に隠れる。猟師が足跡を追ってきてそこを通過した瞬間、後ろから攻撃するのだ。獣とは思えぬほど狡猾である。
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「猟師たちはヒグマは時速80キロで走るって言うわ。時速70キロのトラックにヒグマが悠々と併走してきたっていう話も聞いたことがある。トルクがあるから雪の上でもスピードが落ちない。100メートルを6秒台から7秒台で走るのよ。300キロも400キロもある体で。人間の世界記録は10秒を少し切るくらいでしょう。つまり世界一速い人間より平均的なヒグマのほうが断然速いってこと。見た目は鈍そうだけど人間の脚では絶対に逃げられない。」
(中略)
「それに木登りも巧いの。秋になると、大木に登って木の実やヤマブドウを食べてる。よほど大きな雄の成獣以外はするすると登るわ。」
(中略)
「泳ぐ力も人間より上。夏になると湖や海で泳いで遊んでる。天塩の海岸から利尻島まで20キロを泳いで渡ったという記録もある。」
(中略)
「昔、苫小牧の道路でマイクロバスと衝突して下敷きになったヒグマが、それを持ち上げて脱出したっていう有名な話がある。マイクロバスは4トン近い重さがあるし、人間が乗ってるんだから5トンを超えていただろう。俺は人間の中ではかなり力があるほうだが、それでもベンチプレスで150キロだ。ヒグマは5トンだ。5000キロだ。それを持ち上げるんだ。この差が人間とヒグマの絶望的な能力差だ。」
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この他にも、1615年に北海道で発生した「三毛別羆事件」等の例を挙げて、ヒグマの執拗性や恐ろしさが記されている。昔、巨大なハイイログマの恐怖を描いた「グリズリー」という映画が在ったが、とても怖かったのを覚えている。この作品でもヒグマに襲われる人々の姿が詳細に描かれているが、スプラッター映画が苦手な方は読む気が失せるかもしれない。それ程に怖い。
ミステリーとしてはイマイチだが、ストーリーはなかなか面白いし、何よりもヒグマの生態が興味深い。総合評価は星3.5個。
1975年に大ヒットした映画「ジョーズ」。自然界に生きる動物の恐怖をこれでもかと描いたのが当たり、「柳の下の二匹目のドジョウを狙う」感じで制作されたのが翌年公開の「グリズリー」だった様に記憶しています。
「三毛別羆事件」はこちら(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%AF%9B%E5%88%A5%E7%BE%86%E4%BA%8B%E4%BB%B6)に詳細が載っておりますが、冬眠に失敗して空腹状態のヒグマが民家を襲い、その際に人肉の旨さを知ってしまった為、次々に人を襲った事件だった様です。この本を読む迄、そんな事件が在った事すら知りませんでした。
太ももに爪を引っ掛けられたら脚が千切れるのではないかなど。
フィクションとはいえディティールは大事ではないかなと。
作品は面白かったのですが、最後が残念な感じです。
大賞受賞作で在っても、出版に際しては編集者等からディテールの修正が結構入るもの。況してや優秀賞受賞の此の作品は相当修正が入った筈なのですが、御指摘の点を考えると「確かに変かも。」と思いました。事実とは異なる記述で在っても、其の違和感を消し去ってしまう程の何か(筆力等。)が在れば良いのでしょうが、そうでないと作品を台無しにしてしまうというのは、良く見受けられるケースでは在りますね。
今後とも何卒宜しく御願い致します。
師匠が仕留めましたが、10番の鹿射ち弾を連射して突進してくる姿に小便を漏らした。
戦闘中に漏らすてのは嘘です。
奴が死んだとき漏らした。緊張が抜けた瞬間に漏らすと解った。
ブログ管理者が確認出来る「リアル・タイム解析機能」によると、今年、アクセスが多かった記事の1つが、此の「シャトゥーン ヒグマの森」でした。人里への熊接近が相次いだ事も、アクセス数を増やした要因なのでしょう。
実際に恐怖に直面している時では無く、恐怖から安心へと状況が変わった際に失禁するというのは「成る程。」です。実際に経験した者で無いと、判らない部分ですね。