ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「獅子の城塞」

2014年01月06日 | 書籍関連

直木賞作家佐々木譲氏といえば、一般的には「警察小説巨匠」というイメージが強いだろうが、実は「冒険小説」や「歴史小説時代小説」も結構著している。(「歴史小説」と「時代小説」の違いに関しては、此方参照の事。)

 

と知った風な事を書いたが、実は彼の作品で「警察小説」以外に読んだのは、時代小説の「帰らざる荒野」だけ。其の唯一の作品が「星3.5個」という総合評価だった事も在り、今回手に取った時代小説「獅子の城塞」も、正直余り期待していなかった。安土桃山時代に活躍した、寺院城郭等の石垣施工をする石工の集団を「穴太衆(あのうしゅう)」と呼ぶが、穴太衆の棟梁を父に持つ22歳の青年が主人公というのに、地味さを感じたのも1つの理由だ。

 

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其の方、西南蛮で充分に学んで来い。そして俺のに、彼の安土城みずぼらしく思える程のを築くのだ。城下も任せる。総構えの、此れこそ天下人居る場所と誰もが頷く町を築け。西南蛮の坊主さえ、驚嘆して声を失う様な。良いな。」。織田信長から直々密旨を受け、穴太衆の棟梁・戸波市郎太(となみ いちろうた)を父に持つ22歳の次郎左(じろうざ)は、戦火欧州へと修行の旅に出た。グレゴリオ暦では、1582年2月20日の事。

 

そして1584年8月11日、天正遣欧少年使節団と共に、遥かリスボンの港に降り立った次郎左。密旨を与えた信長は、既に2年前に本能寺暗殺されていたが、彼は貪欲西洋身に付け忽ち名を揚げて行くが・・・。

 

嫉妬の目、密告逃避行戦乱の日々。帰国を夢見つつも、イスパーニャ軍の暴虐反旗を翻すネーデルラント共和国軍の力となり、鉄壁城塞を築き上げた男の波乱生涯

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次郎左の父・市郎太は、「若かりし頃に武田信玄佐久への侵攻捕虜となり、人買いに売られて、3年間、甲斐金山奴隷として働かされるも、穴掘り衆として信玄の軍勢に従った際、負け戦となったに逃げ出す事が出来た。」という過去を持つ。そして其の息子・次郎左は日本発つ前、信長によって滅ぼされた浅井長政家臣だった、若き浪人・瓜生小三郎(うりゅう こさぶろう)と勘四郎(かんしろう)という兄弟と出遭う。元主君を滅ぼした憎き信長の為に日本を離れるという次郎左を、最初は侮蔑する2人だったが、市郎太親子の過去を知り、自分達と相通じる部分を感じた事で、3人は近しい関係となる。

 

次郎左と接して行く中で、瓜生兄弟は海外に渡り、傭兵として生きる道を選ぶ事になるのだが、彼等を含め、次郎左と様々な人達との「出遭い」や「別れ」が、何れも印象的。戦乱の世から泰平の世へと日本が移り変わって行く時代、海外でも同様の状況が存在し、そしてそんな真っ只中で必死に生き抜こうとしていた日本人が居たで在ろう事に、感慨深い物が在った。

 

信長や徳川家康との“約束”を守るべく、帰国を夢見るも、中々叶わない現実。年を重ねて行く中で、幾つもの「人生の分岐点」に直面し、懊悩する次郎左。「もし自分が次郎左の立場だったら、どういう選択をしただろうか?」と、読者の多くが考える事だろう。

 

決して派手さは無い作品だが、自身の半生を振り返り、「生きる事や仕事の価値」を考えさせられる、非常に濃い内容だと思う。総合評価は、星4.5個

 

次郎左の父・市郎太の若き時代を描いた作品「天下城」というのが、10年前に刊行されているそうなので、何れ読んでみたいと思う。


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2 コメント

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Unknown (マヌケ)
2014-01-06 16:45:13
ご紹介の作品、なかなか興味をそそられます。 三が日、実家であまりに暇を持て余し、近所のツタヤで立ち読みした作品が吉村昭の新刊です。 終戦直前の東北地方の漁村に、兵士の溺死体400体以上が流れ着き、漁師たちが弔うも、多くの遺体に手首から先や腕から先がなかったことも含め軍部から箝口令が引かれ隠されたとある出来事の真相が作者の解釈で解明される作品に驚きました。 有利な立場にある者だけが生き残り、下の者はその踏み台になるという世の中の縮図を見ました。 あと、西加奈子さんの短編で「空の携帯電話」という作品も立ち読みしました。 携帯を持つことが世の一員になることと同じなのかと、今更ながら思いました。 
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>マヌケ様 (giants-55)
2014-01-06 21:37:44
書き込み有難う御座いました。

「久々に“骨太な作品”を読んだ。」という感じがしました。読む前の期待感が無かっただけに、一層です。

御紹介戴いた吉村明氏の作品、非常に興味が惹かれます。機会を見付けて、読んでみますね。

正月休みの間、ヒストリーチャンネル(http://www.historychannel.co.jp/)では「まんが日本史」という番組が一挙再放送され、其の一部を見ました。子供向けの番組なのですが、歴史の流れをざっくり把握するには適した内容。江戸時代の飢饉に付いて触れた部分では「農民等、多くの民が亡くなりましたが、役人で餓死した人は居なかったという事です。」と、又、「蛮社の獄」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9B%AE%E7%A4%BE%E3%81%AE%E7%8D%84)に付いて触れた部分では「時の権力者が『正義』だ何だという事を持ち出した時は、気を付けないといけない。法律で国民を縛り上げ、言論統制に繋がり兼ねないから。」といった趣旨の説明が在り、「20年以上前に制作された番組なのに、何か『今』を語っている様だなあ。」と苦笑してしまいました。
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