直木賞作家・佐々木譲氏といえば、一般的には「警察小説の巨匠」というイメージが強いだろうが、実は「冒険小説」や「歴史小説・時代小説」も結構著している。(「歴史小説」と「時代小説」の違いに関しては、此方を参照の事。)
と知った風な事を書いたが、実は彼の作品で「警察小説」以外に読んだのは、時代小説の「帰らざる荒野」だけ。其の唯一の作品が「星3.5個」という総合評価だった事も在り、今回手に取った時代小説「獅子の城塞」も、正直余り期待していなかった。安土桃山時代に活躍した、寺院や城郭等の石垣施工をする石工の集団を「穴太衆(あのうしゅう)」と呼ぶが、穴太衆の棟梁を父に持つ22歳の青年が主人公というのに、地味さを感じたのも1つの理由だ。
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「其の方、西南蛮で充分に学んで来い。そして俺の為に、彼の安土城がみずぼらしく思える程の城を築くのだ。城下も任せる。総構えの、此れこそ天下人が居る場所と誰もが頷く町を築け。西南蛮の坊主共さえ、驚嘆して声を失う様な。良いな。」。織田信長から直々に密旨を受け、穴太衆の棟梁・戸波市郎太(となみ いちろうた)を父に持つ22歳の次郎左(じろうざ)は、戦火の欧州へと修行の旅に出た。グレゴリオ暦では、1582年2月20日の事。
そして1584年8月11日、天正遣欧少年使節団と共に、遥かリスボンの港に降り立った次郎左。密旨を与えた信長は、既に2年前に本能寺で暗殺されていたが、彼は貪欲に西洋の技を身に付け、忽ち名を揚げて行くが・・・。
嫉妬の目、密告、逃避行、戦乱の日々。帰国を夢見つつも、イスパーニャ軍の暴虐に反旗を翻すネーデルラント共和国軍の力となり、鉄壁の城塞を築き上げた男の波乱の生涯。
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次郎左の父・市郎太は、「若かりし頃に武田信玄の佐久への侵攻で捕虜となり、人買いに売られて、3年間、甲斐の金山で奴隷として働かされるも、穴掘り衆として信玄の軍勢に従った際、負け戦となった隙に逃げ出す事が出来た。」という過去を持つ。そして其の息子・次郎左は日本を発つ前、信長によって滅ぼされた浅井長政の家臣だった、若き浪人・瓜生小三郎(うりゅう こさぶろう)と勘四郎(かんしろう)という兄弟と出遭う。元主君を滅ぼした憎き信長の為に日本を離れるという次郎左を、最初は侮蔑する2人だったが、市郎太親子の過去を知り、自分達と相通じる部分を感じた事で、3人は近しい関係となる。
次郎左と接して行く中で、瓜生兄弟は海外に渡り、傭兵として生きる道を選ぶ事になるのだが、彼等を含め、次郎左と様々な人達との「出遭い」や「別れ」が、何れも印象的。戦乱の世から泰平の世へと日本が移り変わって行く時代、海外でも同様の状況が存在し、そしてそんな真っ只中で必死に生き抜こうとしていた日本人が居たで在ろう事に、感慨深い物が在った。
信長や徳川家康との“約束”を守るべく、帰国を夢見るも、中々叶わない現実。年を重ねて行く中で、幾つもの「人生の分岐点」に直面し、懊悩する次郎左。「もし自分が次郎左の立場だったら、どういう選択をしただろうか?」と、読者の多くが考える事だろう。
決して派手さは無い作品だが、自身の半生を振り返り、「生きる事や仕事の価値」を考えさせられる、非常に濃い内容だと思う。総合評価は、星4.5個。
次郎左の父・市郎太の若き時代を描いた作品「天下城」というのが、10年前に刊行されているそうなので、何れ読んでみたいと思う。
「久々に“骨太な作品”を読んだ。」という感じがしました。読む前の期待感が無かっただけに、一層です。
御紹介戴いた吉村明氏の作品、非常に興味が惹かれます。機会を見付けて、読んでみますね。
正月休みの間、ヒストリーチャンネル(http://www.historychannel.co.jp/)では「まんが日本史」という番組が一挙再放送され、其の一部を見ました。子供向けの番組なのですが、歴史の流れをざっくり把握するには適した内容。江戸時代の飢饉に付いて触れた部分では「農民等、多くの民が亡くなりましたが、役人で餓死した人は居なかったという事です。」と、又、「蛮社の獄」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9B%AE%E7%A4%BE%E3%81%AE%E7%8D%84)に付いて触れた部分では「時の権力者が『正義』だ何だという事を持ち出した時は、気を付けないといけない。法律で国民を縛り上げ、言論統制に繋がり兼ねないから。」といった趣旨の説明が在り、「20年以上前に制作された番組なのに、何か『今』を語っている様だなあ。」と苦笑してしまいました。