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12年前、富豪一家3人を惨殺し、20億円もの資産と共に国外逃亡した男が、横浜市内で目撃された。早速、警視庁捜査1課で継続捜査を担当する鷺沼友哉(さぎぬま ともや)が捜査に乗り出すが・・・。
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「越境捜査シリーズ」や「駐在刑事シリーズ」、「所轄魂シリーズ」等、原作の警察小説が次々とTVドラマ化され、人気を博して来た小説家・笹本稜平氏。自分が好きな小説家の1人だったが、残念な事に昨年11月、急性心筋梗塞にて70歳で亡くなられてしまった。今回読了した作品「流転 ‐越境捜査‐」は、「越境捜査シリーズ」の第9弾にして、恐らくは“新刊”として上梓される彼の作品としては最後という事になるだろう。詰まり、「越境捜査シリーズ」も完結という事になる。
「越境捜査シリーズ」は、「警視庁捜査1課特命捜査対策室特命捜査第2係に所属する鷺沼を含めた警察関係者5人と、元ヤクザの福富憲一(ふくとみ けんいち)の合計6人が、闇に葬られそうになっている巨悪を暴くべく、密かにタスク・フォースを組んで捜査する。」という“現代版必殺シリーズ”的な作品。」だ。「タスク・フォースの一員で在り、瀬谷警察署に勤務する宮野裕之(みやの ひろゆき)は職務態度が好い加減で、巨悪の背後に在る大金を“経済的制裁”の名の下、巻き上げる事に前のめりになっている。」が、そんな宮野に感化され、鷺沼以外の他のメンバー達も経済的制裁を優先し出している。とは言え、「巨悪を許さない!」という思いは強いのだが、兎にも角にも個性的な面々だ。
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交番の日常業務として巡回連絡というものがあり、受持地区の住民の自宅を訪問し、巡回連絡カードというものを作成している。
そこには家族全員の氏名、非常時の連絡先、勤め先、学校、実家などの電話番号等が記載され、災害時や空き巣、自宅での不審死などの際の連絡用に使用するものだという建前になっているが、住民にとっては義務ではなく、実際のカード作成件数は東京都内で50パーセント弱といった程度らしい。
とはいえ住民票にも記載されていないような個人情報がそこには含まれているわけで、それが交番という警察の最末端の施設のロッカーに無防備で保管されていることに、むしろプライバシー保護上の懸念を抱く世論もある。現に大量のカードを紛失したり、その情報を悪用してストーカー行為や高齢者に金銭を要求したりという警官による犯罪も過去に何度かあった。
さらに戦前には思想犯の摘発が警官による巡回の主な目的で、警察が行う業務である以上、現在もその要素が残っていないわけではない。とくにカードの作成を拒否する者は反体制的思想の持ち主とみなされ、逆に周辺住民や家主などに対する聞き込みが行われると聞いている。
それがカルト宗教や過激な政治勢力の洗い出しに有効だという考えもあるようだが、実際にはオウム真理教幹部の高橋克也と菊地直子が、潜伏中に地元交番の警察官による巡回連絡を受けたにもかかわらず、指名手配中であることを見破られなかったという事例もある。
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今回の事件、人間関係が実に複雑だ。無関係と思われた人物達が、意外な形で結び付いて行く。又、“悪”の上に“更なる悪”が存在する等、作品の世界にどんどん引き込まれて行く。
金に汚い宮野は、此の作品の“アクセント”にもなっており、面白い存在では在るのだけれど、今回の「流転 ‐越境捜査‐」に関して言えば、経済的制裁への拘りが余りにも出過ぎていて、うんざりしてしまった。鷺沼以外の他のメンバー達も同様で、「一歩引いて欲しかった。」という感じ。
とは言え、最後の“どんでん返し”には爽快感が在る。此の爽快感がもう味わえないというのは、本当に残念。
総合評価は、星3つとする。