ワンパターンな作風よりも、多彩な作風を持つ作家の方が魅力的では在る。でも、そうでは在っても、好きな作風と余りに異なる作風を併せ持つ作家の場合だと、余りに異なる作風の作品への不快感が、より強くなってしまう傾向も。大好きな作家・石田衣良氏の場合も、そんな1人だ。
「池袋ウエストゲートパーク・シリーズ」に代表される「日本社会の闇、又、其の闇の中で藻掻き続けている弱者に光を当て、エッジの利いた表現力で描写するという作風。」は大好きだが、一方で「『セックスを描く事は、人を深く描く事だ。』とでも言いたい様な、余りに執拗なセックス描写に溢れる作風。」には辟易とさせられている。
「じゃあ、そういう作品は読まなければ良いではないか。」という意見も在ろうが、「大好きな作家なので、全作品を読みたい。」という思いと共に、「今度こそは、余りに執拗なセックス描写が薄れているのではないか。」という期待感が在り、ついつい読んでしまう。そうして、「又か・・・。」とがっかりさせられるのだ。
今回読了した「初めて彼を買った日」は、石田氏の娼年シリーズに該当する1作品を含んだ8つの短編小説から構成されている。
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もう直ぐ28歳の誕生日を迎える森岡瑞穂(もりおか みずほ)は、親友の横井里香(よこい りか)からプレゼント代わりにボーイズ・クラブのカードを貰う。若い男の子が、1時間1万円で何でもしてくれるらしい。「女性にとって最高の年齢は27歳。」と考える瑞穂は、セックスどころかキスさえせずに、27歳の1年間を残り10日で終え様としている事に焦りを感じ、迷った末に倶楽部に連絡すると・・・。(「初めて彼を買った日」)
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「初めて彼を買った日」を含む6作品は、自分が苦手なタイプの石田作品。子供の頃、父が購入していたエロ雑誌を隠れて読み、宇能鴻一郎氏や川上宗薫氏の官能小説に興奮していた人間なので、官能小説自体を否定する訳では無いが、「池袋ウエストゲートパーク・シリーズ」がとても好きなだけに、ギャップの大きさにどうしても抵抗感が在る。もう少し性描写を抑えても良いと思うのだが。
「黒髪クラブ」という作品は性描写の薄い作品で、そして最後の作品「あの静かで特別な夏」は性描写が無い。「あの静かで特別な夏」は昨年8月、新聞に載った作品という事で、「新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、テレワークを余儀無くされた結果、離婚する事になった夫婦。」を描いている。「家で接する機会が増えた事で、夫の不快な部分をより強く感じられる様になり、妻が離婚を決断した。」というのは、実際の社会でも少なく無いと聞く。
総合評価は星2.5個。