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信州に在る「24時間365日対応」の本庄病院に勤務していた内科医の栗原一止(くりはら いちと)は、より良い医師となる為、信濃大学医学部に入局する。消化器内科医として勤務する傍ら、大学院生としての研究も進めなければならない日々も、早2年が過ぎた。
矛盾だらけの大学病院という組織にも、其れなりに順応している積りで在ったが、29歳の膵癌患者の治療方法を巡り、局内の実権を掌握している准教授・宇佐美(うさみ)と激しく衝突してしまう。
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現役の医師で在り、小説家でも在る夏川草介氏。彼が著した「神様のカルテ・シリーズ」は映画化される等、大ヒット作となっている。今回読了した「新章 神様のカルテ」は、同シリーズの第5弾。信州の「本庄病院」で地域医療に従事していた一止だが、今回の作品では信濃大学医学部に入局し、大学院生として学びつつ、消化器内科医としても勤務している。又、小春という娘を授かり、今回の作品から登場している。
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元来が医療というものは、人が人の命を左右するという無茶な使命を負わされている。かかる乱暴な礎石の上に、理不尽と不条理と矛盾の三本柱を立て、権威という大きな屋根をかけたのが大学病院だ。もとより基礎も柱もゆがんでいるのに、屋根だけは格別巨大であるから、様々なところにひずみが生じて、まことに いびつな建造物と化しているのである。
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“病院”といっても、一般の病院と大学病院とでは、結構な違いが在る。患者を治療する、もっと言ってしまえば「患者の命を救う。」というのは同じなれど、“救う基準”が大学病院の場合は、より厳格の様だし、権威に基づくヒエラルキーが確立されている事も、医療行為という本来の仕事以外に、余計な気を使わせる所だろう。此の辺の詳しい事情は、実際に読んで貰えたらと思う。
病院というのは、或る意味“人間社会の縮図”と言って良い。新たに生れ落ちる命が在れば、消えて行く命も在る。又、消え掛かっていた命が、再び蘇りもする。喜怒哀楽が渦巻く場で、医師達は日々葛藤する。
生き死にという物を、深く考えさせられる作品だ。「良かった・・・。」と喜びを覚える展開も在れば、小説の中の話とはいえ、何とも言えない理不尽さに胸が痛くもなる。
「最近、読了した小説への総合評価が高くなっている傾向が在る。」ので、「困ったなあ・・・。」という思いは正直在ったが、でも、良い作品は良い。総合評価は、星4.5個とする。