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「ローマの休日」:1953年製作のアメリカ映画。主演はグレゴリー・ペック氏とオードリー・ヘプバーンさん。イタリアのローマを表敬訪問した某国の王女と、彼女が滞在先から飛び出して、1人でローマ市内に出た時に知り合った新聞記者との1日の恋を描いている。
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映画「ローマの休日」は大好きな作品の1つで、過去に何度見た事だろうか。無鉄砲な王女と新聞記者の男性という、普通ならば接点を持ち得ない2人が偶然出遭い、そして恋に落ちるというストーリーはときめく物が在るし、“日本人が最も好きなハリウッド女優”とも言われるオードリー・ヘプバーンさんは本当に魅力的。
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“特別な声”を持つ君と出会い、僕の人生は鮮やかに変わった。
渋谷に在る専門学校の声優科に入学した石森陽児(いしもり ようじ)は、上海から遣って来たアニメ好き少女・陽心心(ヤン シンシン)と出会う。異国の地で直向きに夢を追う彼女に惹かれ乍ら、幼馴染みの手塚浩平(てづか こうへい)、元高校球児の藤子健太郎(ふじこ けんたろう)、子役上がりの大島遥(おおしま はるか)、元キオスク女子の萩尾真琴(はぎお まこと)といった、年齢も出自も違う仲間達と共に、特訓の日々を送る。或る日の夜、浩平に誘われ、帰宅する心心の後を興味本位で着けた所、彼女を見張る不審な車に気付く。心心が抱える秘密とは?そして、彼女は何者なのか?
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石田衣良氏の小説「心心 東京の星、上海の月」は、「エンターテイメント産業で働く事を目指ししている学生達が通う専門学校で、声優科に籍を置く6人の若者達の姿を描いている。
レヴューでは基本的にネタバレをしない主義なのだが、今回は1点だけネタバレする。心心の正体に付いてで、「彼女は世界第2位、株式の時価総額が百兆円近いスマートフォン・メーカーのオーナー社長の1人娘。」なのだ。「超大金持ちの彼女が何故、日本の専門学校に入学し、薄汚れたアパートに住み乍ら、声優を目指しているのか?」等、幾つもの謎が存在する作品だが、「本来は出遭う事が無かったで在ろう超大金持ちの令嬢と、一般家庭に育った普通の男子学生との淡い恋。」という意味で、“令和版ローマの休日”と言える作品。
二昔前ならばアニメと言えば、日本とアメリカで市場を独占する様な感じだった。だが、今は他の分野と同様、中国の勢いが物凄く、「昨年度の日本アニメの年間興行収入が134億円だったのに対し、中国アニメは750億円だった。」とか。「人口が大きく違う。」というのは在るにせよ、アニメの世界でも中国が大きな力を持って来ているのは確かだ。「クオリティー面では日本のアニメの方が優れている。」と信じたいが、「其のクオリティー面でも、中国アニメは日本アニメを猛追している。」という話も在る。
「アニメで溢れ、アイドル並みの人気を誇る声優達が存在する日本。」だが、「アニメ従事者や声優として生計を立てて行けるのは、非常に厳しいという現実。」を、「心心 東京の星、上海の月」では記している。
又、声優を目指す学生達が、台詞を何度も吹き込んで練習する為のヴォイス・レコーダーを学校から渡されるのだが、其れが性能的には劣る代物。「どうしてなのか?」という理由が記されているのだが、「成る程。」と思わされる物だった。
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そうか、アニメはもう紫式部や松尾芭蕉なんかと同じ、日本の古典なんだな。陽児は心心の笑顔を見ながら考えていた。欧米人がシェイクスピアの台詞で会話ができるように、日本ではアニメの台詞を引用しながら会話がなりたつのだ。ほんとうの文化的バックボーンとはそういうものかもしれない。
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6人の学生達の内、日本人5人の苗字に注目して欲しい。「石森」は「石ノ森章太郎氏」、「手塚」は「手塚治虫氏」、「藤子」は「藤子不二雄氏」、「大島」は「大島弓子さん」、そして「萩尾」は「萩尾望都さん」と、漫画界の巨匠達の苗字を意識して付けた物と思われ、石田氏のアニメや漫画に対する深い愛情を感じる。
過去に何度か書いているが、「セックス描写を前面に押し出した石田作品は好きじゃ無い。」が、「『池袋ウエストゲートパーク・シリーズ』に代表される様な、若者達の瑞々しい言動と危うさをエッジの効いた文章で描く石田作品は大好き。」という自分。今回の作品は、後者に当該。今年で62才となった石田氏だが、こんなにも“良い意味で”キラキラした作品を生み出せるのだから、“化け物”と言って良い。
総合評価は、星4つとする。