可成り前の話になるが、或るワイドショーを見ていた所、金正日・朝鮮労働党総書記の話題を取り上げていた。何でも「彼が視察を行った際、其処に居たペリカン達が一斉に立ち上がり、そして“敬礼”をした。」という、北朝鮮が報じた“馬鹿馬鹿しいニュース”に付いてだ。当時、此のワイドショーにコメンテーターとして良く出演していた女性・Kさんは、「良くもまあ、こんな“在り得ない話”を“事実”として報道しますねえ。」と糞味噌に扱き下ろしたが、自分も全く同感だった。
で、CMを経て次の話題に入ったのだが、「女性皇族の〇〇様は鳥類が大好きで、数千種類の鳥類の名前や特徴を漏らす事無く記憶されている。」という趣旨の“超人伝説”を取り上げたのだった。「此の手の在り得ない話を持ち出し、不気味な位にマスメディアが持ち上げる。」事も、自分が皇室に抵抗を感じる原因の1つなのだが、「権威が大好きで、権威に対して気持ち悪い位に阿る。」事の多いKさんは、「流石、〇〇様ですね。人格だけでは無く、全ての面で優れておられる。」なんぞと、此れでもかと言わん許りの御追従三昧。「つい先程迄、在り得ない報道に対して散々嘲笑していた人物が、同じ口で別の在り得ない報道を大絶賛している。」事に、心底呆れてしまった。こういった“判断基準”がコロコロ変わる人間は、何を言おうが説得力を持ち得ないし、自分は信頼を置く事が出来ない。
自分が「極右や極左といった、極端な思考の人に信頼を置けない。」のは、「此の手の人達が“概して”、判断基準が好い加減で、実に手前勝手だから。」だ。「自分にとって好ましい対象に関しては、好ましい事柄は無条件で『正しい事。』と主張する一方で、好ましくない事柄は又無条件で『誤っている!』と否定する。」のは、とても論理的とは言えないし、説得力も持ち得ないだろう。
6年前の記事「重い言葉」でも触れたが、所謂「南京事件」に関して言えば、極右の中には「素晴らしい日本軍が、民間人を1人たりとも殺害する訳が無い。」と在り得ない主張をする者が存在する。又は「殺した人間の数“だけ”に固執し、『中国側が主張する白髪三千丈的な死者数は在り得ない。そんなに多くは無いから、大虐殺では無い。」といった主張をする者も。「人数的に正確で無い。」事を主張するのは「在り。」だが、だからと言って「人数がそう多くは無いのだから、日本軍は全く悪く無い。」とするのは妙な話だ。そして、逆に「在り得ないレヴェルの数字を持ち出し、日本を必要以上に叩く極左の人達。」というのも、極右の人達と同様に全く支持出来ない。
************************************************関東大震災朝鮮人虐殺事件:1923年9月6日、日本で発生した関東地震・関東大震災の混乱の中で、「朝鮮人や共産主義者が井戸に毒を入れた。」というデマが流れ、其れを信じた官憲や自警団等が、多数の朝鮮人や共産主義者を虐殺した事件。正確な犠牲者数は不明だが、論者の立場により、推定犠牲者数に数百名~約6千名と、非常に幅広い差が在る。
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「関東大震災朝鮮人虐殺事件」も「南京事件」同様、極右と極左の主張は“概して”極端。「日本人は世界で最も素晴らしい存在なので、そんな日本人が朝鮮人や共産主義者を1人たりとも虐殺する筈が無い。」と主唱する極右が存在すれば、白髪三千丈的な在り得ない被害者数を持ち出す極左も存在する。様々な資料を調べれば、「白髪三千丈的な被害者数は在り得ないが、一定数の被害者は間違い無く存在した。」事は確かだろう。
5月1日付けの東京新聞(朝刊)に、「福田村事件」の事が取り上げられていた。不勉強な身故、自分は此の事件の事を全く知らなかったのだが、「関東大震災朝鮮人虐殺事件」や「南京事件」と同様、極右と極左の主張が極端になりそうな事件だ。
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福田村事件:1923年9月6日に発生した関東大震災後の混乱及び流言蜚語が生み出した社会不安の中で、香川県からの薬の行商団15名が千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)三ツ堀で、地元の自警団に暴行され、9名が殺害された事件。
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詳しくは此方に記されているが、「福田村に在る利根川の渡し船の料金所で、香川県からの行商団15人が『言葉が変。朝鮮人ではないか?』と疑われた事により、隣村を含む数百人の村人が集結。其の場に居た警察官が上司の指示を仰ぐ為に現場を離れると、村人達は一斉に鋤や鎌で襲い掛り、2歳、4歳、6歳の3人の子供と妊婦を含む9人が殺害された。」と言う。「15人は、被差別部落出身だった。」という事で、朝鮮人や共産主義者に対するのと同様、“当時の色濃い差別意識”が事件の背景に在ったと思われる。
こんなにも酷い事をしたというのに、事件を巡る逮捕者は8人だけ。彼等は騒擾殺人罪に問われるも、「郷土を朝鮮人から守った俺達は憂国の志士で在り、国が自警団を作れと命令し、其の結果として“誤って”殺したのだ。」と主張。1人が「懲役2年、執行猶予3年」の第2審判決を受け容れたが、残りの7人には大審院で懲役3年から10年の実刑判決が下された。9人もの人間を殺害したのに、とても軽い刑だと思うが、驚く事に「彼等全員は確定判決から2年5ヶ月後、昭和天皇即位による恩赦で釈放された。」のだとか。全く信じられない話。
人間の集団心理、マス・ヒステリーというものは恐ろしいものです。いったん歯止めが利かなくなったら、どんな残虐な行為でもやってしまう。
関東大震災後の混乱期に、「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」という根も葉もない嘘が拡散して、多くの朝鮮人が殺されたという事件は知っていいましたが、この事件についてはほとんど聞いたことがありませんでした。殺害された犠牲者が数百人~数千人とも言われる朝鮮人殺害事件の人数に比べれば、9人という数はごく少ないという事もあるのでしょうが。
Wikipediaによると、「関東大震災の当日・翌日には、関東各地の警察が「朝鮮人に気をつけよ」「夜襲がある」などと官の側から流言蜚語をまき散らしたとされる」とありますので、これで余計住民がナーヴァスになっていた事も原因の一つでしょうね。警察もいいかげんなものです。
実は私、この福田村事件の被害者と同郷(旧・香川県三豊郡)なのです。地元の方言、讃岐弁は都会の人が聞くとほとんど理解出来ないものがあるかも知れません。例えば、次の讃岐弁、判りますか?
「ほっこげな」「いによらい」「ほんだきんに」「こいさ」
正解は順に「ばかばかしい」「帰って行くようだ」「そうだから」「今夜」
だから「行商団一行の話す方言(讃岐弁)が千葉県の人には聞き慣れずほとんど理解できなかった」のも当然でしょう。現地の住民が「言葉が変だ、朝鮮人ではないか」と誤解してしまったのも無理からぬと思います。
だからと言って無抵抗の行商人に大勢で襲い掛かり、2~6歳の子供や妊婦まで殺してしまうのは許される事ではありません。また仮に朝鮮人だったとしても、何の罪も犯してない人間を虐殺する事も大きな間違いです。
「当時の異様な空気の中で起きた過去の事件」で済ませてしまってもいけないと思います。現代でも朝鮮人差別は根強くあり、またSNSでよってたかって誹謗中傷を加え、若い女子レスラーの方が命を絶つという痛ましい事件も起きています。集団群衆心理の恐ろしさは、今もなくなってはいないのです。そのことを肝に銘じるべきではないでしょうか。
で、この事件を映画化しようとする動きもあるようです。オウムを扱った「A」、「A2」、東京新聞の望月記者に密着した「iー新聞記者ドキュメントー」などで知られる映画監督、森達也氏が映画化実現に向けて動いていますが、どこの映画会社も難色を示し、やむを得ず自主製作する事にし、資金集めの為にクラウドファンディングを立ち上げています。詳細は下記。
https://a-port.asahi.com/projects/fukudamura1923/
同調圧力、不寛容が満ち溢れる今の時代だからこそ、作る意義は大きいと思います。私もCFに参加しようと思っています。giants-55さんのこの記事を読んで、CFに参加してくれる方が増える事を心から望みます。
こんな酷い事件なのに、殆ど知られていないという事は驚きですよね。自分も全く知りませんでした。被害者の多寡に拘らず、こういう酷い事件は多くの人が知るべきだし、後世に伝えて行く事で、同じ様な過ちが繰り返されない様にしないといけない。
「歴史」と言うと「年号を覚えるだけの教科。」とか、「昔の事を学んで、何の役に立つの?」と言う人が居る。確かに授業としての歴史には、教え方等の面で問題は在りましょうが、歴史とは本来「過去に起こった事から、大事な事を学ぶ学問。」だと思うんです。「どんなに人類が進化し様とも、人類の本質的な部分は変わらない。『人類は、同じ様な過ちを繰り返している。』事が、歴史を学べば良く判る。」のです。「独裁制度」にしても、「独裁者が或る日突然、パッと誕生する。」という訳では無い。古今東西の歴史を学べば、「正当な選挙によって国民に選ばれた人物が、様々な“仮想敵”を作り上げ、其れを封じ込める名目で“国民の言論を縛る法律”を次々に作り上げて行き、気付いてみたら何も物が言えない、何も行動を起こせない、雁字搦めな独裁体制が出来上がっていた。」というプロセスが、何度も何度も繰り返されている。プーチン大統領が設立した“愛国青少年軍団”なんぞは、ヒトラーユーゲントや禿、紅衛兵、特高等、悍ましい過去の組織の焼き直しに過ぎないし。
https://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/65325938fbee445d6fc8074192fe870a
Kei様は「福田村事件の被害者」と同郷との事で、一層此の事件に関する思いは深い事でしょう。方言って意味合いを何と無く推測出来る物も在りますが、鹿児島弁や沖縄弁の様に、地元の人間では無いと、意味が全く判らないという事が多いですよね。(叔父が生粋の鹿児島人で、終生きつい鹿児島弁が抜けない人でした。Kei様が書かれた讃岐弁も、殆ど理解出来ませんでした。
「自分達とは違う部分が在るから、排除しても構わない。」という論理は全くおかしいし、其の事で殺傷するなんて言語道断。時代の違いや異常な環境下に在ったとは言え、福田村事件の加害者達は、決して許される事では無い。異常な状況に在れば、平時以上に冷静に、そして論理的に物事を考えないと。
御紹介戴いた映画、実は元記事にも紹介されていました。(紹介して戴き、有難う御座いました。)自分もCFに協力し様と思っていますし、作品が完成したら観に行こうと思っています。