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ワンマン社長の鶴の一声で、全社員に副業が義務付けられたレッツ株式会社で、副業推進部長の若槻早苗(わかつき さなえ)は社内の副業率を上げるべく、日々奮闘していた。だが或る時、件の社長が、搭乗していたヘリコプター内で殺害されてしまう。乗り合わせた3人の役員達が其れ其れ容疑を否認する中、若槻は「赦しのサクラメント」なる副業を始めた変人・御客様相談室の西園寺重信(さいおんじ しげのぶ)を頼って、会社の危機に立ち向かう!
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第19回(2020年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の隠し玉に選ばれた小説「こちら副業推進部、事件です」。著者の阿部考二氏は、「1959年、愛知県生まれ。東京大学卒業。現在は一部上場のIT企業で取締役を務める傍ら、大学や政府系ファンドでヴェンチャーの育成を担う。」という経歴を有している。其れだけでも「凄いなあ。」と思ってしまうのに、更に小説の世界でも評価されたのだから、最早嫉妬の思いが。
一昔前ならば、「社員の副業は禁止!」とする企業が普通だったけれど、今では政府が副業を推奨しているのだから、隔世の感が在る。
政府が副業を推奨しているのは、「成長戦略として、経済成長の後押しを狙っている。」のが理由で、「個人のキャリア形成が図れる。」、「自己実現を追求出来る。」、「所得が増加する。」というのが社員側のメリット。
又、「優秀な人材が持つ技能を他社でも活用する事により、新事業の創出等に繋がり、人材を分け合う事で人材確保にも寄与する。」という企業側のメリットも指摘されている。
だからこそ、ヴェンチャーの育成を担っている阿部氏が、副業をテーマにした小説を書いたのは、時代の要請とも言えるだろう。
ビジネス面で、興味深い内容が少なく無い。其れは評価出来る。だが、文章面で拙さを感じてしまう。“心中の呟き”に其れを強く感じ、スラスラと読むのを妨げる。
又、ミステリーの肝で在る“真犯人当て”と“トリック当て”が極めて凡庸で、個人的には「予想通り!」だった。
ネット上での評価は概して高いが、自分的には「うーん・・・。」という感じ。総合評価は、星3つとする。