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帝都銀行で唯一、不祥事担当の特命を受けている指宿修平(いぶすき・しゅうへい)。「顧客名簿流出」、「美人女子行員のAV出演疑惑」、「幹部の裏金作り」、「ストーカー問題」等々、醜聞隠蔽の為、指宿は奔走する。
だが、知り過ぎた男は、巨大組織の中で孤立して行く。部下になった女性行員、唐木怜(からき・れい)が生き残りの鍵を握る。
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池井戸潤氏の作品「銀行総務特命」は、帝都銀行内外で発生した醜聞を取り扱った、8つの短編小説から構成されている。元銀行員と在って、銀行員の“生態”が生々しく描かれている。池井戸氏は自身の小説の中で良く「銀行員が最も関心を持っているのは、人事に付いて。」と書いているが、銀行員の生殺与奪権を握っていると言って良い「人事部」と、不祥事解決を担当する「総務部」との足の引っ張り合いは、非常に苛烈だ。
全体的に“小粒感”は否めないけれど、御薦めしたいのは「特命対特命」という作品。人事部と総務部のガチンコ対決を描き、指宿が左遷の瀬戸際迄追い込まれる。「残り頁が少ないのに、一体どうなるのか?」とハラハラし乍ら読み進め、残り2頁になっても窮地に追い込まれた儘。「已んぬる哉。」と思って目を投じた最後の1頁に、まさかの大逆転劇が待っていた。此処迄ギリギリの大逆転劇は珍しく、又、意外な形での大逆転劇という事も在って、強く印象に残った。少々不自然さを感じない訳でも無いけれど。
総合評価は、星3つ。