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栗原一止(くりはら いちと)は、信州に在る24時間365日営業の本庄病院で働く内科医。
今回の作品では、医師国家試験直前の一止と其の仲間達との友情、本庄病院の内科部長・板垣源蔵(いたがき げんぞう)と敵対する事務長・金山弁二(かなやま べんじ)との不思議な交流、研修医となり本庄病院で働く事になった一止の医師としての葛藤、そして山岳写真家で在る一止の妻・榛名(はるな)の信念が描かれる。
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現役の医師・夏川草介氏が著す「神様のカルテ・シリーズ」は、映画化もされる等、人気の高い小説。此れ迄に「神様のカルテ」、「神様のカルテ2」、そして「神様のカルテ3」と読んで来たが、何れも「星3.5個以上」という高い評価を自分は与えている。
今回読了した「神様のカルテ0」は、「0」という数字が表す通り、「神様のカルテ」以前の世界、即ち一止が医大生だった頃から本庄病院に研修医として働き始めた頃迄を描いている。
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「人間にはな、神様のカルテってもんがあるんだ。」。唐突なその声にm一止は顔をあげる。「何ですか?」。冗談かと思ったが、大狸先生はあくまで泰然たる態度だ。「神様がそれぞれの人間に書いたカルテってもんがある。俺たち医者はその神様のカルテをなぞっているだけの存在なんだ。」。声もなく見返す一止に、大狸先生は静かに続ける。「人ってのは、生きるときは生きる。死ぬときは死ぬ。栗ちゃんがいくらその生真面目な頭を振り絞って考えたって、國枝さんの人生が大きく変わることはない。國枝さんには國枝さんのために神様が書いたカルテってのが、もともとあるんだよ。そいつを書き換えることは、人間にはできないんだ。」。「それは・・・、しかしずいぶんと無力な話ではないですか。」。「その通りだ。」。大狸先生はゆったりと笑った。「医者にできることなんざ、限られている。俺たちは無力な存在なんだ。」。
(中略)
「大切なことはな、栗ちゃん。命に対して傲慢にならねえことだ。命の形を作りかえることはできねえ。限られた命の中で何ができるかを真剣に考えるってことだ。」。
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大好きな漫画「ブラック・ジャック」には、強く心に残る台詞が多く存在しているが、中でも一番心に残る台詞「人間が生き物の生き死にを自由にしようなんて、痴がましいとは思わんかね。」と重ね合わさる“大狸先生”の台詞。
“今”の一止や榛名達が、どういう“道”を歩んで来た結果として存在しているのか・・・其れが伝わって来る内容で、「神様のカルテ・シリーズ」に、より魅了されてしまった。
総合評価は、星3.5個。続編を早く読みたい。