「郵便将棋」というのが在るそうだ。文字通り、将棋の対局者同士が次の一手を記した紙を封筒に入れ(若しくは次の一手を葉書に書き)、其れを交互に送り合う事で勝敗を決する。一局を終えるのに数ヶ月は掛かると言うのだから、自分の様な短気者には考えられない「優雅な娯楽」だ。郵便代も結構掛かる事から、近年ではメールを使用した「メール将棋」を愛好する者が増えているとも。
此の郵便将棋にインスパイアされたのかどうかは不明なれど、出版社の双葉社と作家の伊坂幸太郎氏がタッグを組んで、実に面白い企画を実施した。「ゆうびん小説」なる企画で、伊坂氏が短編小説を1つ書き終える度に、抽選で選ばれた50名の人に其れを郵便で送って読んで貰うという内容。「或る日、小説がポストに届いていたら、楽しいに違いない。」という編集者の思いから出来上がった企画だそうだが、確かに読書好きからすると夢の様な企画だと思う。ゆうびん小説は全部で5編で、“結末”に当たる第6編は書き下ろされ、全6編として7月に出版された。タイトルは「バイバイ、ブラックバード」。
太宰治の未完小説「グッド・バイ」から想像を膨らませて書いた小説なのだとか。伊坂氏の言葉を借りると、「理不尽な御別れは遣り切れません。でも、其れでも無理矢理笑って、『バイバイ。』と言う様な、そういう御話を書いてみました。」という作品。
主役は「星野一彦」という男性と、「繭美」なる名前の女性。小学生の頃、買い物に出掛けた母親が事故に遭って亡くなってしまったという経験を有する一彦。待てども待てども母親が帰って来ない心細さを嫌と言う程痛感させられ、其れが今も心の何処かにトラウマとして抱えている。見た目は平凡だが、5人の女性と同時交際している。詰り「五股交際」している訳だ。と言って、彼がジゴロや女誑しの様な人間と言う訳でも無い。繭美が彼を評して曰く「誰か、いいな、と思う女がいたら、何も考えず、交際する。わー、僕この子と付き合うんだあ、って走っていく子供だよ。ほかにいる女のことはもう頭から抜け落ちている。自分のその思いのまま、ボールを追いかけてるだけだ。システムも戦略もありゃしない。(中略)何股もかけて、女たちが喜ぶわけがねえだろが。お前は他人の気持ちにやたら敏感かと思えば、一方では、何人もと付き合って、相手を蔑ろにしている。矛盾とは言わねえが、どこか偏ってるよな。別に、いろんな女とセックスがしたいってタイプでもないだろう。数を競いたいわけでもあるまいし。」としているが、上記したトラウマに加えて、彼自身の持つ純粋さと鈍感さが綯い交ぜになっての「“悪意の無い”五股交際」といった所か。
金銭トラブルを起こした結果、正体不明の組織によって“あのバス”にて何処かに送られる事になった一彦。読者も一彦自身も、“あのバス”がどういうバスで、何処にどういう目的で送られるのか全く判らない。「“あのバス”が迎えに来る迄の残り少ない時間を、同時交際していた5人の女性に対して“一方的に”サヨナラを告げる為に費やしたい。」とする一彦の願いを組織が認め、監視役として送り込まれて来たのが繭美なのだが、彼女は強烈な存在感を放っている。身長180cm、体重180kgという超巨大な体躯で、肉の付いた丸顔、目付きは悪く、大きな鼻をし、他者に嫌悪感を与える言動を次から次へと繰り出す繭美。読めば読む程、“平成のジャバ・ザ・ハット”ことマツコ・デラックスさんを思い浮かべてしまうキャラクターだ。
繭美には敵わないものの、一彦が五股を掛けた5人の女性達も中々個性的で、一方的に別れを告げる一彦や癇に障る言動を逐一する繭美に対しての遣り取りは面白い。現実離れした設定を得意とする伊坂氏だけれど、此の作品でも其れは健在。
不快さを具現化した様な繭美だけに最後の最後、本当に最後の数行で見せた彼女の姿には心打たれる物が在った。総合評価は星3つ。
此の郵便将棋にインスパイアされたのかどうかは不明なれど、出版社の双葉社と作家の伊坂幸太郎氏がタッグを組んで、実に面白い企画を実施した。「ゆうびん小説」なる企画で、伊坂氏が短編小説を1つ書き終える度に、抽選で選ばれた50名の人に其れを郵便で送って読んで貰うという内容。「或る日、小説がポストに届いていたら、楽しいに違いない。」という編集者の思いから出来上がった企画だそうだが、確かに読書好きからすると夢の様な企画だと思う。ゆうびん小説は全部で5編で、“結末”に当たる第6編は書き下ろされ、全6編として7月に出版された。タイトルは「バイバイ、ブラックバード」。
太宰治の未完小説「グッド・バイ」から想像を膨らませて書いた小説なのだとか。伊坂氏の言葉を借りると、「理不尽な御別れは遣り切れません。でも、其れでも無理矢理笑って、『バイバイ。』と言う様な、そういう御話を書いてみました。」という作品。
主役は「星野一彦」という男性と、「繭美」なる名前の女性。小学生の頃、買い物に出掛けた母親が事故に遭って亡くなってしまったという経験を有する一彦。待てども待てども母親が帰って来ない心細さを嫌と言う程痛感させられ、其れが今も心の何処かにトラウマとして抱えている。見た目は平凡だが、5人の女性と同時交際している。詰り「五股交際」している訳だ。と言って、彼がジゴロや女誑しの様な人間と言う訳でも無い。繭美が彼を評して曰く「誰か、いいな、と思う女がいたら、何も考えず、交際する。わー、僕この子と付き合うんだあ、って走っていく子供だよ。ほかにいる女のことはもう頭から抜け落ちている。自分のその思いのまま、ボールを追いかけてるだけだ。システムも戦略もありゃしない。(中略)何股もかけて、女たちが喜ぶわけがねえだろが。お前は他人の気持ちにやたら敏感かと思えば、一方では、何人もと付き合って、相手を蔑ろにしている。矛盾とは言わねえが、どこか偏ってるよな。別に、いろんな女とセックスがしたいってタイプでもないだろう。数を競いたいわけでもあるまいし。」としているが、上記したトラウマに加えて、彼自身の持つ純粋さと鈍感さが綯い交ぜになっての「“悪意の無い”五股交際」といった所か。
金銭トラブルを起こした結果、正体不明の組織によって“あのバス”にて何処かに送られる事になった一彦。読者も一彦自身も、“あのバス”がどういうバスで、何処にどういう目的で送られるのか全く判らない。「“あのバス”が迎えに来る迄の残り少ない時間を、同時交際していた5人の女性に対して“一方的に”サヨナラを告げる為に費やしたい。」とする一彦の願いを組織が認め、監視役として送り込まれて来たのが繭美なのだが、彼女は強烈な存在感を放っている。身長180cm、体重180kgという超巨大な体躯で、肉の付いた丸顔、目付きは悪く、大きな鼻をし、他者に嫌悪感を与える言動を次から次へと繰り出す繭美。読めば読む程、“平成のジャバ・ザ・ハット”ことマツコ・デラックスさんを思い浮かべてしまうキャラクターだ。
繭美には敵わないものの、一彦が五股を掛けた5人の女性達も中々個性的で、一方的に別れを告げる一彦や癇に障る言動を逐一する繭美に対しての遣り取りは面白い。現実離れした設定を得意とする伊坂氏だけれど、此の作品でも其れは健在。
不快さを具現化した様な繭美だけに最後の最後、本当に最後の数行で見せた彼女の姿には心打たれる物が在った。総合評価は星3つ。
以前の記事「ゴールデンスランバー」(http://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/3f3b1986f4e38a70c9d573b1edb052fb)でも書いたのですが、嘗ては伊坂作品が苦手で敬遠している時期も在りました。其れが今や伊坂作品大好き人間に変わってしまったのですから、読まず嫌い(正確に言えば「最初だけちょこっと読んで嫌い」なのでしょうが。)という事だったのでしょう。
「グラスホッパー」は伊坂氏自身が「書いていて、最も充足感を覚えた作品。」としている様ですね。新しい作品から遡って読んで行っているので、読んだら記事にしたいと思っています。
そもそも活字人間なので、何か読んでいないとイライラしてしまうという面が自分には在ります。ですので季節を問わずに乱読しているのですが、流石に今夏の暑さには読書のスピードも落ち、やっと秋めいて来た昨今、漸く元の読書スピードに戻りつつ在ります。
「マリアビートル」、伊坂氏の最新作ですね。書店に並んでいたのを目にして読む気満々なのですが、如何せん読まないままに置かれている他の作家の作品が一杯在って、後回しになっています。
可成り練り込まれた作品の様で、読むのが今から楽しみ。