8代目橘家圓蔵氏が7日、心室細動にて亡くなられたと言う。享年81。
自分の年代で言えば、「8代目橘家圓蔵」というよりも「5代目月の家圓鏡」という名跡の方が馴染み深い。本職は“落語家”という事になるけれど、初代林家三平氏と同様、“TV番組に出捲っていた人気タレント”という印象が強い。1960年代から1980年代に掛けて、彼のメディア露出は本当に高かったから。
「子供の頃、家が半端無く貧しかった。住んでいたんのは、とんでもない襤褸家。屋根には穴が開いていて、其処から毎晩、月が見えた。なので、落語家になった時、『“月の家”圓鏡』という名跡を貰った。」という話を、大昔、彼がしていたのを覚えている。本当の話と思い込んでいたのだが、恐らくは冗談なのだろう。
彼は、「昭和九年会」のメンバーでも在った。今年の4月に亡くなられた愛川欽也氏もそうだが、近年、同会のメンバーが次々と鬼籍に入られている。幼少期より、TV番組等で馴染み深い方々。自身の生きて来た時代が、どんどん遠ざかって行く様に感じる。合掌。
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何故、父は幼い自分を捨てて失踪し、死んでしまったのか?母の四十九日を終えた岩崎俊也(いわさき しゅんや)は、両親が青春時代を過ごした北海道の運河町へと旅立つ。
20年前、父・裕二(ゆうじ)は、此の運河町で溺死してしまった。遺品となった1枚の古いモノクロ写真には、家族に決して見せた事の無い笑顔が写っていた。
事故の直前迄飲んでいた硝子町酒房の店主・佐久間透(さくま とおる)によれば、同じ法科大学漕艇部員だった彼の妻・美加(みか)の密葬に参加する為に滞在していたと言う。
更に父の後輩からは、昭和44年に漕艇部内で起きた或る事件を機に、陽気だった父の人柄が激変してしまった事を知る。父は、事件に関係していたのだろうか?家族にさえ、隠し続けていた苦悩とは?
「知らない方が良い事も在る。」・・・死の真相に近付くに連れ、胸の内に膨らむ想い。果たして父の過去を暴く権利が、僕に在るのだろうか・・・。
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佐々木譲氏の小説「砂の街路図」。昔、「最初から犯人が判っているのに、33分“も”掛けて犯人を当てる。」という“脱力系ドラマ”「33分探偵」【動画】というのが在ったけれど、「父は何故、妻子を捨て、20年前に北海道で溺死したのか?」を知るべく、運河町を訪れた主人公・俊也は、33分では無いけれど、2日間という短時間で“謎”を解き明かす。「20年前の出来事が、こんなにも早く解明されてしまう物か?」という疑問が、どうしても残ってしまう。
「昭和40年代」という“時代の空気”が、行間から伝わって来る。「右翼」や「左翼」という概念が曖昧になって来ている昨今だけれど、「昭和40年代だと、『左翼』と『警察』の関係性は、こんな感じだったんだろうなあ。」と。又、“時代が止まった儘の街”といった感じの運河町の描写は、郷愁めいた物を感じさせてくれる。
唯、肝心のストーリーは戴けない。死の理由には今一つ納得出来ないし、“悪い連中”も罰せられ無い。街の描写は非常に細かいが、だからと言って、“事件”に関係が在る訳でも無い。「だらだらと書かれている割には、中身が余り無い。」という感じなのだ。佐々木作品にしては、がっかりさせられる内容。
総合評価は、星2.5個とする。