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「ノックスの十戒」
1.犯人は物語の当初に登場していなければならない。
2.探偵方法に超自然能力を用いてはならない。
3.犯行現場に秘密の抜け穴・通路が在ってはならない。
4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。
5.中国人を登場させてはならない。(当時、黄禍論を背景として、中国人が悪事を行なう低俗なスリラーが横行していた為とされる。)
6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない。
7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人で在ってはならない。
8.探偵は読者に提示していない手掛かりによって解決してはならない。
9.“ワトスン役”は、自分の判断を全て読者に知らせねばならない。
10.双子・一人二役は、予め読者に知らされなければならない。
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ミステリー好きには広く知られた「ノックスの十戒」。イギリスの聖職者にしてミステリー作家でも在ったロナルド・ノックス氏が1928年に、「ミステリー小説を書く上での10の禁じ手」として挙げた物だ。又、同年にやはりミステリー作家のS・S・ヴァン=ダイン氏が、「ヴァン・ダインの二十則」という禁じ手を発表。ミステリーのトリックを巡っては古今東西、「あのトリックはアンフェアだ。」、「否、斬新なトリックで在り、アンフェアには当たらない。」等の賛否両論が何度も巻き起こっている。アガサ・クリスティ女史の「アクロイド殺し」は、その手の賛否両論が巻き起こった有名な作品の一つと言える。
「ノックスの十戒」や「ヴァン・ダインの二十則」はあくまでも指標で在り、絶対にその禁じ手を使ってはならないという訳でも無い。実際問題、これ等の禁じ手が発表されて以降、意図的に禁じ手を用いた作品も生み出されている。個人的には「多少の違和感は在ったとしても、そのストーリーに深みを与える物で在れば、禁じ手の使用も時には在り。」と考えている。
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代理母で生計を立てている小田桐良江は、嘗て出産した子供・三輪俊成が母親の咲子に虐待されている事を知り、発作的に俊成を三輪家から連れ出してしまう。その事を知った嘗ての愛人・田代幸司と兄貴分でアングラ・カジノの店長・赤星サトルは張龍生に事態の収拾を委ねる。
龍生は、悪夢の様な仕手戦に破れた株屋。そんな龍生がとてつもない誘拐計画を思い付く。龍生の父で認知症の症状が見られた泰生も加わり、風変わりだが結束の固いチームが、「身代金ゼロ!せしめる金は5億円!」という計画をスタートさせる。彼等は、如何なる方法でそんな大金をせしめるのか?
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「『このミステリーがすごい!』大賞」の第2回大賞受賞作「パーフェクト・プラン」(柳原慧さん)の梗概。「代理母」、「胎児細胞」、「ネット・トレーディング」、「ハッカー」、「瞬間像記憶」、「幼児虐待」等々、今日日のテーマが盛り込まれている。特に機械音痴の自分にとっては、ハッカーに関する情報が詳細に記されているのが興味深かった。
ミステリアスな登場人物達、特に代理母を生業にしている良江と、何処か陰を秘めた龍生のキャラクターが気になる。次の展開が気になるストーリー建てもなかなか良い。大賞受賞が頷ける作品では在る。
唯、「犯人探し」という観点から言えば、上記したどれが該当するかはネタバレになるので書かないが、禁じ手が用いられているので不満足さは残る。前半から中盤に掛けて濃密なストーリーだっただけに、エンディングが残念な感じも。
総合評価は星3.5個。
人間進歩ないなあ^^;。
まあ「怪しい中国人(華僑か香港・マカオ人)」って日活アクションの定番でもあるんですが^^;。
スピリチュアルといえばコナン・ドイル氏が晩年はまったということも思い出しました。
クリスティの「降霊術がらみの殺人」ネタも定番ですが、ドイル先生の晩年作品はムチャクチャなのあります^^;。
この当時の欧米人にとって、東洋人の顔は個体識別ができず、安易な2人1役等の横行につながりかねなかったのでは、と。
松坂と岡島がレッドソックス入団当時、2人の顔の区別がつかないと本気で言っていたチームメートがいたそうですし、あり得る話かもしれませんね。
東西を問わず、その歴史を振り返ると、技術的な進歩は著しくとも、人間そのものは余り進歩してないんですよね。だからこそ、戦争が繰り返される訳で・・・。
怪しい中国人の役、昔は「ドン・ガバチョ」こと藤村有弘氏(http://www.youtube.com/watch?v=Eq-M1ncusJs)が良く演じておられましたね。あの胡散臭い雰囲気が好きでした。映画「20世紀少年 第2章 最後の希望」では、小松政夫大先生がインチキ臭い中国人?の役を演じており、藤村氏の事をふっと思い出した次第。
最近好んで読んでいる三崎亜記氏や伊坂幸太郎氏、道尾秀介氏等の作品には神秘的な要素に頼った“謎解き”といった物も在り、これ等なんかは「ノックスの十戒」には反してしまう事でしょう。でも、それを凌駕する“筆力”が在るからこそ多くのファンが居る訳で、ミステリーの世界も時代と共に自ずと変容が求められるのかと。
今、三埼亜記氏の近刊本「廃墟建築士」を読んでいる最中です。「日常的な世界」に「非日常的な世界」をスルッと滑り込ませるのを得意とする彼ですが、その非日常的な世界の着眼点が良い。「或る日、突然隣町との戦争が始まった。」という設定の処女作「となり町戦争」もそうですが、「良くもまあ、こんな設定を思い付く物だ。」と毎回思わされます。読破したら、記事にしてアップする予定。