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文久3年。やくざ者の蓮八(れんぱち)は、苦界に沈んだ幼馴染み・八穂(やほ)を救う為、やくざの賭場から大金をせしめた。報復として蓮八に差し向けられたのは、凄腕の殺し屋・夜汐(よしお)。京で新選組の一員となり、身を隠す事にした蓮八だが、或る日、八穂からの文を受け取る。帰って来て欲しい・・・其の想いを読み取った蓮八は、組から脱走する事を決意。土方や沖田からも追われ乍ら、八穂の待つ小仏峠に向かうべく、必死で山中を進む。だが、夢で蓮八に語りか掛け、折りに触れ彼を導くのは、命を狙っている筈の夜汐だった。
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小説「流」で、第153回(2015年上半期)直木賞を受賞した東山彰良氏。彼の作品を初めて読んだのは9年前で、第1回(2002年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で銀賞及び読者賞を受賞した「逃亡作法 ~TURD ON THE RUN~」だった。「逃亡作法 ~TURD ON THE RUN~」に対する自分の総合評価は「星2つ」、「流」には「星3つ」と芳しい物では無かった。
今回読了した彼の作品「夜汐」は、主人公の蓮八を軸にして、彼が所属した(と設定する)新選組を描いている。
以前にも書いたと思うが、自分は新選組という組織が好きでは無い。新選組を熱狂的に愛する人達は概して、彼等の中に“純粋さ”や“一途さ”を感じるのだろうが、自分はそう感じ得ないので。とは言え、非常に興味深い組織なのは事実で、だからこそ関連する書籍等を、そこそこ読み込んでいたりする。
そんな自分からすると、「夜汐」の中で描かれる新選組隊士達の姿は、目新しさを感じる物は無い。「普段は子供の様な部分を見せる沖田総司が、一度剣を持つと人が変わる。」といった事等、新選組ファンの方達ならば、尚更の事だろう。
此の作品、時代小説なのは間違い無いのだが、幻想文学的色合いも強い。直木賞受賞作「流」のレヴューの中で「余りにも無意味と思える描写が多過ぎで、読んでいて疲れてしまう。“霊的描写”を入れたのも、必要性が感じられなかったし。」と記したが、「夜汐」も余りに無意味と思える描写が多く、何よりも殺し屋・夜汐に象徴される“霊的描写”は、必然性を感じ得なかった。
一度パッと読んだだけでは“状況”が良く理解出来ず、再度読み直して「そういう事か。」と理解出来た点が多く、読み進めるのに時間を要した。文章が難解という事では無いのだけれど、“読み手に対する丁寧さ不足”というのを感じてしまう。
総合評価は、星2.5個とする。