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大手自動車メーカー「トキワ自動車」のエリート社員だった君嶋隼人(きみしま はやと)は、と或る大型買収案件に異を唱えた結果、横浜工場の総務部長に左遷させられ、同社ラグビー部「アストロズ」のゼネラル・マネージャーを兼務する事に。
嘗て強豪として鳴らしたアストロズも、今は成績不振に喘ぎ、鳴かず飛ばず。巨額の赤字を垂れ流していた。
アストロズを再生せよ。ラグビーに関して何の知識も経験も無い、ずぶの素人で在る君嶋が、御荷物社会人ラグビーの再建に挑む。
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池井戸潤氏の小説「ノーサイド・ゲーム」は、タイトルからも判る様に、ラグビーを題材にした作品。ラグビーに関する知識が殆ど無い自分なので、読む前は「どうなのかなあ。」という不安な思いが在ったのだけれど・・・。
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「高貴か・・・。ノーサイドって言葉、あるよな。」。君嶋は持っていたペンをおくと、静かに椅子の背にもたれた。「アストロズのゼネラルマネージャーになったとき、調べてみたんだよ。すると、英語圏のラグビー用語としては見つからなかった。“ワンフォーオール、オールフォーワン”もだ。」。
どちらも、ラグビー精神を礼賛する言葉として多用されるものだ。「結局、ふたつともいわば“和製ラグビー英語”なんだな。だけど、それがしっくりくるのは、日本人なら誰でも知っている武士道の精神や潔さといった美意識との相性がいいかじゃないか。」。
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「キャラ立ちした登場人物達。」、「何度も訪れるピンチと予想外の展開に、ついつい感情移入してしまう。」、「ぐっと来る記述と爽快感の在る結末。」等、池井戸作品の神髄は健在。
人は誰しも、色々な“顔”を持っている。“敵”と思っていた者が、実は“味方”だったり、逆に“味方”と思っていた者が、本当は“敵”だったりする訳だが、「ノーサイド・ゲーム」では、そんな人間の複雑さを描いている。
ラグビーに詳しくない人でも、問題無くすらすらと読み進める事が出来る。池井戸氏の筆力在っての事だろう。実に面白かった!
総合評価は、星4つとする。