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東京での暮らしに見切りを付け、亡き父の故郷で在るハヤブサ地区に移り住んだミステリー作家の三馬太郎(みま たろう)。地元の人の誘いで居酒屋を訪れた太郎は、消防団に勧誘される。迷った末に入団を決意した太郎だったが、軈て長閑な集落で密かに進行していた事件の存在を知る。連続放火事件に隠された真実とは?
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池井戸潤氏の小説「ハヤブサ消防団」を読了。「半沢直樹シリーズ」等、経済小説を十八番とする池井戸氏だが、此の「ハヤブサ消防団」は「濃密な人間関係が構築されている田舎に、1人のミステリー作家が都会から移り住み、次々と遭遇する事件。」を描いた作品。経済小説とは毛色が異なるけれど、“池井戸氏らしさが十分に発揮された内容”だ。
「隣人がどういう人なのかも判らない。」というのが珍しく無い都会とは異なり、田舎は概して人間関係が濃密。亡き父の故郷で在り、子供の頃は訪れた事が在るとはいえ、三馬太郎にとってハヤブサ地区は何も知らないに等しい土地。そんな土地に移り住んだ太郎を、地区の人達は温かく迎えてくれる。そして、勧誘されたのが消防団の団員。最初は全く乗り気では無かった太郎だが、団員として活動して行く中で、住民達との距離がどんどん縮まって行き、同時にハヤブサ地区への愛情も深まって行く。
「風景描写が、相変わらず上手いなあ。」と感じる。何でもない風景描写なのだが、書き加えられる事によって、自分が目の前で見ている様な“現実感”が在り、だからと言ってくどくどしい感じは無い。風景描写の匙加減が、実に絶妙なのだ。
ハヤブサ地区に移り住んで来た太郎を紹介する際、或る人物が何度か冠する“2文字の言葉”が在った。「ミステリーに於て、最も怪しく無さそうな人物が真犯人。」というのは良く在るパターン。意味在り気な2文字の言葉に、「最も怪しく無さそうな人物が真犯人。」というのと、「此の人物が真犯人だったらショックだなあ。」というのを加え合わせ、真犯人と予想した人物が存在したのだけれど、全く外れていた。
どんでん返しに次ぐどんでん返し。「真犯人と予想した人物が真犯人では無かったと思いきや、『矢張り真犯人だったのか!』・・・と再度思わされるも・・・。」と、真犯人当ては困難を極めた。
最後の最後、或る人物が涙乍らに告白する場面がぐっと来る。ずっと好感が持てなかった人物だけに、一層にだ。
設定的に続編は期待出来なさそうだが、続編が読みたくなる作品。総合評価は、星4つとする。