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何者かによる動物虐待で愛犬・リクを失った中学1年生の向井光一(むかい・こういち)は、同級生の原村沙紗(はらむら・さーしゃ)と犯人捜しを始める。
「或る証拠」から決定的な疑惑を入手した光一は、真相を確かめるため司法浪人の久保敦(くぼ・あつし)に相談し、犯人を民事裁判で訴える事に。被告は実父の克己(かつみ)。3年前に母親を喪った光一にとって、唯一の家族だ。
周囲の戸惑いと反対を押し切り、父親を法廷に引き摺り出した光一だったが、軈て裁判は驚くべき真実に突き当たる。
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第10回(2011年)「『このミステリーがすごい!』大賞」にて、優秀賞を受賞した小説「僕はお父さんを訴えます」(著者:友井羊氏)。タイトルに在る様に「子供が父親を訴える。」という話なのだが、其の子供というのが中学1年生という事で、非現実的な設定とも言える。「少年を主人公に据えた、ライトノベル風の作品。」という書評を事前に目にしていた事も在り、「内容を期待しない方が良いのかもなあ。」と思って読み始めた。
中学1年の光一が司法浪人の敦のアドヴァイスを受け乍ら、民事裁判を起こす事になるのだが、当然の事として光一自身に法律の知識や裁判のノウハウは乏しく、故に敦が光一の質問に対して逐一説明を行う。小難しさの在る法律用語や、意外に一般には知られていない裁判の彼此が判り易く、敦の口から説明されるので、読んでいる側としても勉強になる事だろう。著者はこういう効果を狙って、主人公を法律の知識等に乏しい中学1年生に据えたのかもしれない。
敦が司法浪人して迄弁護士になろうとしている理由が後半で明らかになるのだが、其の理由、そして敦を待ち受ける運命が、何とも切ない。
著者は、2つの「意外な展開」を仕掛けている。だが1つに関しては、自分は意外性を感じなかった。“或る物”に対して不自然な程に“固執した表記”をしており、「此れ等に固執するという事は、“彼”は殺人事件で在って、犯人はXXなのだろうな。」と予想が出来たから。
でも、もう1つに関しては意外な展開で、「○○を殺したのが△△だったとは・・・。」と唖然。嫌悪感を持ってしまう程、非常に後味の悪い設定なのだが、にも拘わらず最後の最後で“ハッピーエンド風”に締めてしまっているものだから、個人的には違和感を覚えた。
とは言え、「新人作家として、此れだけ“読ませる内容”の作品を書き上げた。」というのは評価出来る。「2作目以降、どんな作品を紡ぎ出せるか?」に掛かっているが、意外と「友井羊」なる作家は大化けするかもしれない。同じ回の「『このミステリーがすごい!』大賞」で大賞を受賞した作品「弁護士探偵物語 天使の分け前」(著者:法坂一広氏)が余りにガッカリな内容だっただけに、「僕はお父さんを訴えます」の思っていた以上の出来は意外でも在った。
総合評価は、星3.5個。