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40歳の三文ライター・猪名川健人(いながわ けんと)は、婚活事業を営む「ドリーム・ハピネス・プランニング」の紹介記事を書く仕事を引き受ける。安っぽいホームページ、雑居ビルの中の小さな事務所・・・どう考えても怪しい。
手作り感溢れる地味なパーティーに現れたのは、やけに姿勢の良いスーツ姿の女性・鏡原奈緒子(かがみはら なおこ)。場違いな程の美女だが、彼女は「私は、本気で結婚を考えている人以外は来て欲しく在りません。」と宣言する。そして、生真面目にマイクを握った。そう、彼女は婚活業界では名を知らぬ者は居ない"婚活マエストロ"だった。
其の見事な進行で、参加者は完全にマエストロ・鏡原の掌の上。彼女は何者なのか?何故、こんな会社で働いているのか?"マエストロ”って何?謎は深まる許りだが、猪名川は同社のイヴェントを手伝う事に。
65歳以上のシニア向け婚活パーティーから、琵琶湖に向かう婚活バス・ツアー(クルーズ船「ミシガン」に乗車)迄。此れ迄、結婚に興味の無かった猪名川も、次第に「真面目に婚活するのも、悪くないかも知れない。」と思い始める。
「物は試し。」と、他社が運営する婚活パーティーを訪れてみると、其処には参加者として席に座る鏡原の姿が在った。
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宮島未奈さんの小説「婚活マエストロ」を読了。宮島さんは2023年に上梓された小説「成瀬は天下を取りにいく」(総合評価:星4つ)で文壇 デビューを果たしたのだが、此の作品が2024年(第21回)本屋大賞に選ばれる等、高い評価を受けた。そして、続編として上梓されたのが「成瀬は信じた道をいく」(総合評価:星3.5個)で、今回の「婚活マエストロ」は宮島さんにとって3作目と成る。
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高校時代、同じクラスになった女性Iさん。後から知った事だが、彼女の両親は共に教職に就いていた。女性にしては背が高く、瘦せていたIさんは、結構目立つ存在だった。決して美人とは言い難い見た目だったが、兎に角、"独特な雰囲気"を醸し出していたからだ。
目は細く、能面の様な顔立ち。常に無表情で口数は少なく、傍目からは「何を考えてるのか、良く判らない不思議な人。」という感じがし、だからこそ独特な雰囲気を醸し出していたのだ。
「Iさんって、凄く不思議系の人だよね。」というのが、クラスメートと良く交していた言葉。でも、スポーツ系の部活に所属する仲の良い友人から、「Iさんって、俺と同じ部活。滅茶苦茶面白い子だよ。」と聞かされ、彼女と初めて話してみる事に。1人で話し掛けるのも勇気が要ったので、クラスメートのO君と一緒に、彼女の下に。因みに彼も、Iさんと直接話した事は無かったと言う。
「〇〇べ」という名字のO君が、「Iさん、一寸良い?」と話し掛けた所、Iさんは能面の様な顔立ちを崩す事無く「何?」と答えてから、唐突に三味線を爪弾く様な仕草をし乍ら、「〇〇ベンベンベベンベン♪」と言うではないか。思わず大爆笑してしまった。実際に話してみると、Iさんは非常に面白い子で在り、そして非常に"変人"でも在った。
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此れは、「成瀬は天下を取りにいく」の書評で書いた文章だが、主人公の成瀬あかり(なるせ あかり)の変人振りが余りにも際立っており、ついついIさんの事を思い出してしまったからだ。
今回の主人公の1人で在る鏡原奈緒子は"キャラ立ち"はしているものの、変人という感じでは無い。でも、婚活パーティーの客として登場する或る女性が、成瀬あかり並みの変人振り。全く何も無い所から、こうも際立った変人キャラを作り上げるのは、可成り難しいと思われる。宮島さんの周りに、モデルと成る様な人物が居たのだろうか?其れとも、宮島さん自身が、そんな感じなのだろうか?
婚活パーティーの類いには参加した経験が無いのだけれど、想像していた以上に"興味深い環境"。「参加する客の真剣さに関する温度差。」や「参加客が念願成就出来る様に、知恵を絞って盛り上げる主催者。」等々、「こんな感じなんだ。」と勉強(?)に成った。
「2000年前後に作られたHTMLサイトで、昔乍らのホームページの代表格(比喩)として、『阿部寛のホームページ』は知る人ぞ知る存在。」等、自分が全く知らなかった"インターネットに関する情報"が幾つか記されていて、「へー、そうなんだ。」と思ったりも。
内容的に面白くは在るのだけれど、ストーリーの展開や結末が"予定調和的"だし、猪名川健人や猪名川健人はキャラ立ちしてはいるものの、「成瀬あかり程は、"エッジ"が効いていない。」事も在り、「成瀬は天下を取りにいく」程には、"作品の世界"にのめり込めなかった。
総合評価は、星3つとする。