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母を癌で亡くした大学生の白木恭介(しらき きょうすけ)は、遺言に従い、母が30年前に佐伯義春(さえき よしはる)という友人から貰った宝石を返す為、北海道を訪れる。
然し、母と義春が出会ったという場所の程近くに在る駅は、1日の利用者数が0人の秘境駅・羽帯。周辺に人が住む様子は、丸で無かった。
東羽帯の集落出身者、篠山ちよ(しのやま ちよ)という老婆を捜し出すも、「義春は、既に死んでいる。」と教えられる。然し、其の直後にちよが失踪。更に東羽帯では、「裏金」が在ると噂されており、宝捜しに訪れる鉄道ファンが居るらしい。
ちよ捜しに向かった白木は、偶然出会った鉄道マニアの“ユウジロウ”と共に、奇妙な事件に巻き込まれて行く。
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小説「小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件簿」(著者:綾見洋介氏)は、第15回(2016年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の“隠し玉”に選ばれ、今夏上梓された。作品の舞台となっているのは根室本線。存在しない駅名も登場するが、実際に訪れた事が自分にも、根室本線のイメージが浮かんで来る。ストーリー展開の巧みさといい、筆致力の高さを感じる。
著者の綾見氏は相当な鉄道ファン、所謂“鉄ちゃん”と思われる。鉄道に関する記述は非常に細かく、正直言って鉄道には興味が無い自分にとっては、細か過ぎて読むのが面倒になったりしたが、後になってそういった“細かい鉄道情報”が重要な意味を持つ事になる。
「此の人物が、多分“真犯人”だろうな。」という察しは付いた。其の人物の“或る指示”によってだが、ストーリー展開が巧みな分、察しが付き易い設定は勿体無かった。又、真犯人を待ち受けていた結末も、「“悪い意味で”『インディー・ジョーンズ・シリーズ』っぽい非現実感。」が在り、興醒めさせられた。
とは言え、新人作家としては結構なレヴェルの内容。今後の活躍が楽しみ。
総合評価は、星3.5個とする。