「強風で土埃が舞う。」→「その土埃が目に入る事で眼球が傷付けられ、盲人が増える。」→「多くの盲人が弾く為に、三味線を買い求める。」→「三味線の需要が増える事で、皮の原料となる猫が多く殺される。」→「天敵の猫が大幅に減った事で、鼠が大量発生する。」→「鼠に齧られる桶が増加し、桶屋が儲かる。」。有名な諺「風が吹けば桶屋が儲かる」は、このプロセスで成立している。「全く無関係に存していると思われた一つ一つの事象も、巨視的に見ると意外なリンクをしている。」というケースが、世の中には無い訳では無い。
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一人の幼児が事故で亡くなった。天災による悲惨な死、そう思われたこの事故も、幼児とは全く面識の無い人々のエゴイズムが複雑に絡み合った果ての人災とも言えた。罪さえ問えない人災の連鎖を、遺族は唯慟哭するしかないのか?
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小説という形で人間のドロドロした部分を深く掘り下げ、様々な問題を提起して来た貫井徳郎氏。彼の近刊本「乱反射」には、所謂極悪非道な人間は登場しない。小市民と言えるかどうかは別にしても、周りを見渡せば「嗚呼、こんな人居る。」と思う様な“一般人”ばかりが登場している。
異常な迄の潔癖症やプライドの高さから、つい職務を放棄してしまった2人の男。昼間の混雑が嫌という理由だけで、大した症状でも無いのに夜間診療の時間帯に診察を受け続ける男子大学生。面倒を避けたいという理由だけで、急患を受け入れなかった男性の当直医師。娘に尊敬されたいという思いから、街路樹伐採反対運動に立ち上がった“良識派”の主婦。車庫入れが上手く出来ず、パニック状態になってしまった気弱な女性。「腰痛で拾うのが辛い。」という理由から、罪悪感を持ち乍らも飼い犬の糞の始末を怠り続けた高齢の男性。
恐らく彼等は自分自身を「善良な市民」と思っている事だろうし、彼等が為した「モラル違反」というのも我々が日常生活でついしてしまいそうな事とも言える。心に疾しさを持ちつつも、「些細な事だ。」と身勝手な理由で自身を納得させている訳だ。
聖人君子なんて、現実社会ではまず居ない。愛する一人息子を失った新聞記者の父親が、事件の裏側を追う中で思い知らされたのは、誰もが持っているで在ろう「一寸した悪い部分」が乱反射した事で、結果的に一人息子の命が奪われてしまったという事実。その事実を“加害者達”に提示するも、彼等は揃って罪の意識を感じつつ、自己防衛から逆ギレする。そんな姿に深い憤りと無念さを感じる“被害者”の父が、最後に気付いた或る事柄は何とも皮肉だ。
「ひとつだけわかったことがあった。それは、人間の命運はほんの些細な事で分かれるという事実だった。」、「子供を喪ったりしたら、気持の整理なんかつかないですよ。時間が経てば気持ちの整理がつくなんて、そんなことはあり得ないんです。気持の整理は、自分でつけるものなんです。待っていたって、いつまで待っても整理なんかつかないんです。」等、印象に残る記述は少なくなかった。
総合評価は星4つ。
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一人の幼児が事故で亡くなった。天災による悲惨な死、そう思われたこの事故も、幼児とは全く面識の無い人々のエゴイズムが複雑に絡み合った果ての人災とも言えた。罪さえ問えない人災の連鎖を、遺族は唯慟哭するしかないのか?
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小説という形で人間のドロドロした部分を深く掘り下げ、様々な問題を提起して来た貫井徳郎氏。彼の近刊本「乱反射」には、所謂極悪非道な人間は登場しない。小市民と言えるかどうかは別にしても、周りを見渡せば「嗚呼、こんな人居る。」と思う様な“一般人”ばかりが登場している。
異常な迄の潔癖症やプライドの高さから、つい職務を放棄してしまった2人の男。昼間の混雑が嫌という理由だけで、大した症状でも無いのに夜間診療の時間帯に診察を受け続ける男子大学生。面倒を避けたいという理由だけで、急患を受け入れなかった男性の当直医師。娘に尊敬されたいという思いから、街路樹伐採反対運動に立ち上がった“良識派”の主婦。車庫入れが上手く出来ず、パニック状態になってしまった気弱な女性。「腰痛で拾うのが辛い。」という理由から、罪悪感を持ち乍らも飼い犬の糞の始末を怠り続けた高齢の男性。
恐らく彼等は自分自身を「善良な市民」と思っている事だろうし、彼等が為した「モラル違反」というのも我々が日常生活でついしてしまいそうな事とも言える。心に疾しさを持ちつつも、「些細な事だ。」と身勝手な理由で自身を納得させている訳だ。
聖人君子なんて、現実社会ではまず居ない。愛する一人息子を失った新聞記者の父親が、事件の裏側を追う中で思い知らされたのは、誰もが持っているで在ろう「一寸した悪い部分」が乱反射した事で、結果的に一人息子の命が奪われてしまったという事実。その事実を“加害者達”に提示するも、彼等は揃って罪の意識を感じつつ、自己防衛から逆ギレする。そんな姿に深い憤りと無念さを感じる“被害者”の父が、最後に気付いた或る事柄は何とも皮肉だ。
「ひとつだけわかったことがあった。それは、人間の命運はほんの些細な事で分かれるという事実だった。」、「子供を喪ったりしたら、気持の整理なんかつかないですよ。時間が経てば気持ちの整理がつくなんて、そんなことはあり得ないんです。気持の整理は、自分でつけるものなんです。待っていたって、いつまで待っても整理なんかつかないんです。」等、印象に残る記述は少なくなかった。
総合評価は星4つ。
giants55さんの文章、組み立てがすごいいいですね。
あやかりたいっす。^±^
さて、風が吹けば桶屋が儲かる・・・すごいつながりですよね。
あと、子供のころ読んだ民話では「わらしべ長者」。
子供心につながりがすごいと思いました。^±^
先日大混雑するコンビニの駐車場で、入り口近くに止まった軽自動車のせいで、ワゴン車が上手く出られず、電柱にぶつかった後、方向を変えたら軽に衝突。
現金輸送車のお兄さんたち、隣の郵便局のATMにならんだ若い子達とその光景を「あーやっちゃった」と声を上げながら眺めていました。
ワゴン車のオジサン、パニックのあまりあちこちまたぶつけつつ逃走を図ろうとしたようですが、出るに出られず。そもそもの原因の軽にはいかにも小悪党風のオジサン。ワゴンのオジサンに被害者顔で怒鳴りあげるのです。タイヘンな修羅場でした。
でも原因は軽が変なところに止まっていたことです。輸送車のオジサンがやってきたおまわりさん(郵便局の横が派出所です)に適切に教えていました。その後のことは分かりませんが、ワゴンのオジサン、どうなったかしら…(心配)
自他共に認める運動音痴故、狭い所での車庫入れは大の苦手。恐る恐る入れるも、壁に側面や後部を擦ってしまった事も数度。ですから、この小説に登場するパニック状態になってしまった女性の気持ちは判らないでも無いです。
赤い三角定規様が目にされたそのおじさんも、さぞやパニくっていた事でしょう。自分が同じ立場だったらと思うと、ゾッとします。又、そういうパニくっている人に対して、わざと余計に煽る様な輩も居たりするんですよね。困ったものです。
予約してしまいました。
(購入していないところが、なんとも)
オムニバス形式というのは
それらが「ひとつの何か」に
どんどんまとまっていく様が
いいですね。
あとは書き手の技量です。
g-55さんの点もよいので
期待して待つことにします。
個人的には「性善説」では無く「性悪説」を採っている自分ですが、とは言え根っからの極悪人というのはそう居る訳でも無く、仰る様に普段は善良と見做される人が殆どなんでしょうね。それが一寸した事で“悪の面”を見せてしまう。そのきっかけは煎じ詰めれば「欲」という事になるのでしょうか。
貫井氏の作品は御指摘の通り“重い”物が多いのですが、この作品に関して言えば従来の物よりは重さが減じられているかもしれません。それが故に、サクサク読める感じが在りました。