ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「白夜街道」

2009年01月26日 | 書籍関連
我が国で最も信頼性が高いと言われているメディア東京スポーツなのは言う迄も無いが、この新聞社が主催している映画の賞に「東京スポーツ映画大賞」が在る。過去の受賞一覧を見て戴ければ御判りの様に、最近でこそ軌道修正されてしまった感が在るが、初期の頃の“ぶっ飛び”加減がなかなか良かった。既に大ベテランの上に「超」が付く存在だった北林谷栄さんや乙羽信子さん、山崎努氏に対して、新人賞を与えるなんて発想は普通じゃ出て来ない。

ところが文学賞に目を向けてみると、年齢的には「新人」と言い難い作家が新人賞を受けるケースは、そう珍しくない事では無い。デビューが遅かったり、日の目を見る迄時間が掛った等の理由からだが、そんな文壇に在っても2006年に「隠蔽捜査」で第27回吉川英治文学新人賞を受賞した今野敏氏は、異例な存在と言えるのではないだろうか。受賞時点でデビューから28年が過ぎているだけでは無く、100冊を超える著作を世に送り出している人だからだ。因にWikipediaによると、「空手を始めとする武道、格闘技の描写に、圧倒的に優れている。日本や世界の裏社会や、現代の若者の心理描写も特徴的。上品でポジティヴな作風から、若い女性ファンが多い。小説のジャンルとしては、SF・バイオレンス・アクション・伝奇オカルトといった分野のノヴェルス作品も多いが、そうしたラベルから想像される以上の、質の高い娯楽小説を送り出している。警察小説の熱心な書き手としても知られる。」と彼の作風は紹介されている。そんな彼が約2年半前に刊行した小説「白夜街道」を取り上げてみる。

*************************************
外務省国際情報統括官組織下に在る「第四国際情報官室」。欧州中央アジア米州中東アフリカ地域の情報を独自に収集&分析するのが役割のこのセクションに所属する職員・河中廉太郎が、ロシアの貿易商と密談した後に怪死した。密談の翌日に体調不良を訴えて病院に向かい、その翌日には入院。それから3日で亡くなったと言う。最初は高熱や嘔吐が在り、やがて低血圧と頻脈の状態が出て、最後には尿が全く出なくなり、吐血が止まらなくなっての死。死後行われた解剖では、彼の左脚から小さな鉄球が見付かる。「毒物を小さな鉄球に注入し、それを何等かの方法で体内に撃ち込んで暗殺する。」という、旧ソ連時代のKGBが良く使っていた手口との類似性。

警視庁公安部の倉島警部補は、この事件の捜査に当たる事になる。と言うのも、その貿易商と一緒に来日していたのが、4年前に日本国内で指定暴力団の組長を殺害した疑いで倉島が追った、元KGBの殺し屋・ヴィクトルだったからだ。2人を追ってロシアへ飛ぶ倉島達の前に、マフィアやテロリスト達の影がチラつき、そして・・・。
*************************************

「事件の捜査と言うよりも、国益を最重要視する公安の姿。」や「ロシア社会の複雑さ。」等が微に入り細に入り描かれている。約2年半前に刊行されているので、ロシアの現状とはやや異なっている部分も在るのだろうが、プーチン政権の“別の面”が垣間見れれるのも、非常に興味深い。終りの部分で以下の文章が登場するのだが、納得させられるストーリーだ。

すべての人々は平和で安全な日常の中で暮らす権利がある。だが、その日常は実に危ういバランスの上に成り立っていることを、倉島はすでに知ってしまった。誰かがどこかで必死の努力をしなければ、そのバランスを保つことはできない。日本も例外ではない。

「超硬質アクション・ノヴェル」という惹句が踊っているが、凡庸なアクション・ノヴェルでは無い。非常に読み応えの在る小説で、総合評価は星4つとしたい。

コメント    この記事についてブログを書く
« パッと思い浮かぶ有名人は?... | トップ | 「訪れて良かった!」と思っ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。