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2016年11月。盲目乍ら、2010年のショパン・コンクールで2位を受賞したピアニスト・榊場隆平(さかきば りゅうへい)は、クラシック界の話題を独占し、人気を集めていた。然し、「榊場の盲目は、自身の付加価値を上げる為の芝居ではないか?」と絡んでいたフリーライターが銃殺され、榊場が犯人として疑われてしまう。事件は深夜、照明の落ちた室内で起きた。「そんな状況下で殺人が出来るのは、容疑者の内、生来暗闇の中で暮らして来た榊場だけだ。」と警察は言うのだ。窮地に追い遣られた榊場だったが、そんな彼の下に、榊場と同様ショパン・コンクールのファイナルに名を連ねた彼の男が駆け付ける。
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小説「さよならドビュッシー」で第8回(2008年)「『このミステリーがすごい!』大賞」を受賞し、文壇デビューを果たした中山千里氏。以降、「岬洋介シリーズ」や「御子柴礼司シリーズ」、「刑事犬養隼人シリーズ」、「『ヒポクラテスの誓い』シリーズ」、「毒島シリーズ」、「宮城県警シリーズ」等の人気シリーズを生み出して来て、今月刊行予定の「人面島」で合計63冊(エッセー集1冊を含む。)となる。「さよならドビュッシー」の刊行が2010年1月の事だから、約2.3ヶ月に1冊という刊行ペースで、西村京太郎氏のペースには及ばないものの、相当な物だ。
「おわかれはモーツァルト」は、昨年10月に読了した「合唱 岬洋介の帰還」以降の時代を描いた話で、「岬洋介シリーズ」の岬洋介(みさき ようすけ)が探偵役となり、殺人事件の容疑者となってしまった“戦友”の榊場隆平を救うというストーリー。他に「刑事犬養隼人シリーズ」の犬養隼人(いぬかい はやと)、そして名前だけだが「御子柴礼司シリーズ」の御子柴礼司(みこしば れいじ)も登場する。
何度か書いた事だけれど、自分は“日常的に音楽を聞くという人間”では無い。クラシック音楽に関して言えば、有名所を本の一部知っている程度。だから、クラシック音楽の情報で溢れる中山作品は、聊か“情報過多”な感じがして、読み進めるのがしんどい部分も在る。
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楽譜とは作曲者が楽曲のイメージを記号化したソフトウェアだ。だから同じ楽譜であっても演奏者というハードウェアの性能如何で放たれる音楽には相違が生じる。楽譜を読み込む際に楽曲の作られた背景、指示記号に込められた作曲家の意図を理解する能力が違うからだ。つまり楽曲→記譜→読解→演奏というプロセスを経て音が発せられるのだが、それぞれの過程で情報の洩れや歪みが生じる。
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真犯人は、意外な人物だった。なので、「“真犯人当て”という点では、非常に難易度が高い。」と言えるだろう。けれど、「真犯人を予想出来る材料が余りに少なく、且つ真犯人に結び付けるのが困難。」という事を考え合わせると、当然の結果か。
クラシック音楽に関する情報をもっと削ぎ落せば、よりすっきした内容になると思う。個人的には、冗長さが気になった。
総合評価は、星3つとする。