【絵1】
【絵2】
児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務し、2016年から立命館大学産業社会学部教授として教鞭を執っている宮口幸治氏が、多くの非行少年達と接して来た経験を元に書いた本が「ケーキの切れない非行少年たち」だ。
余りにも短絡的な理由から犯罪に手を染めたり、犯行を隠す意思が全く感じられない様な稚拙さを見せる少年達が存在する。否、少年達だけでは無く、良い歳をした大人も存在する。そういう人達の犯行報道に触れると、「何でなんだろう?」と不思議でならなかったりする訳だが、今回の「ケーキを切れない非行少年たち」を読んで、疑問が氷解した。
冒頭に載せた「絵1」と「絵2」を見て欲しい。宮口氏が医療少年院に勤務していた際、粗暴な言動が目立つ少年達が描いた絵(「図1-1」以外)で在る。「絵1」は、「図1-1」を見乍ら、手元に在る紙に写させる(「図1-2」)という作業。そして、「絵2」は丸いケーキを3等分するという作業(「図2-1」及び「図2-2」)、又、5等分するという作業(「図2-3」及び「図2-4」)と言う。
「図1-1」を見乍ら「図1-2」を模写したというが、真剣に取り組んだとは思えない様な絵。でも、少年としては真剣に描いている。彼にとっては「『図1-1』が、『図1-2』の様に歪んで見える。」様なのだ。「世の中の事全てが、歪んで見えている可能性が在る。」、即ち「“見る力”がこんなにも弱いと、恐らく“聞く力”も非常に弱く、我々大人の言う事が殆ど聞き取れないか、聞き取れても歪んで聞こえている可能性が在る。」と宮口氏は分析。そして、「そういった事が、彼の非行の原因になっているのではないか?」と直感したそうだ。
又、描かれた丸いケーキを3等分、乃至は5等分するという作業、健常者なら簡単に出来る事だが、「図2-1」~「図2-4」の様に歪な切り方をする少年が、医療少年院には少なく無かったと。こういう歪な切り方は小学校低学年の子供達や知的障害を持った子供の中に時々見られるけれど、問題なのは「こういった切り方をしているのが、強盗、強姦、殺人事件等、凶悪犯罪を起こしている中学生・高校生の年齢の非行少年達に少なく無い。」という事だと、宮口氏は指摘。
健常者には普通に見えたり、聞こえたり、認識出来る事が、彼等に出来ないとしたら、非行の反省や被害者の気持ちを考えさせる様な従来の矯正教育”を行ったとしても、殆ど右から左へと抜けて行くだけではないかと。彼等は見た目、目が見えなかったり、耳が聞こえなかったりする訳では無いので、周りの人達は「違った事をしたり、言ったり、又、同じ過ちを繰り返す彼等を『不真面目だ。』としか思えない。」だろうし、そう思われるのが嫌で、「理解出来ていないのに、理解出来た振りをする非行少年。」というのも生まれる。こうなると、悪循環と言える。
宮口氏の経験上、非行少年に共通する特徴は「5点セット+1」だと。「+1」に関しては、小さい頃からスポーツ等を経験し、身体機能が優れ、不器用さが当て嵌まらないケースも在るので、敢えて「+1」としたそうだが、「5点セット」に関しては大概、此れ等の組み合わせの何処かに当て嵌まるとしている。
*********************************************************
「非行少年に共通する『5点セット』と『+1』」
① 認知機能の弱さ:見たり聞いたり想像する力が弱い。
② 感情統制の弱さ:感情をコントロールするのが苦手。直ぐに切れる。
③ 融通の利かなさ:何でも思い付きで遣ってしまう。予想外の事に弱い。
④ 不適切な自己評価:自分の問題点が判らない。自身が在り過ぎる、無さ過ぎる。
⑤ 対人スキルの乏しさ:人とのコミュニケーションが苦手。
+1 身体的不器用さ:力加減が出来ない、身体の使い方が不器用。
*********************************************************
パッと見では健常者と見分けが付かないけれど、軽度知的障害や境界知能を持った非行少年達に対し、従来の矯正教育を行っても意味が無い。では、具体的にどういう事を行えば良いのか?第7章では、具体的な対策が記されている。個人的には勉強になったし、是非実際に手に取って、読んで貰いたい。